サークルオブライフの
アルテミスS出走ウイークの当欄で、
アーモンドアイや
アパパネと重ねて“牝馬育成の極意”を国枝調教師に問うたところ、「人も女の子のほうがオマセなように、牝馬は物覚えが早いから。体を鍛えるというより、気持ちを壊さないことが何より大事」と。その言葉通り、絶妙なさじ加減による仕上げで
サークルオブライフは2歳女王の座に上り詰めた。
一方で次週に迫った
ホープフルS(28日=中山芝内2000メートル)は一昨年の覇者
コントレイルが象徴するように、来春の牡馬クラシック戦線に向けた本流の2歳頂上決戦。ここで断然の主役の座に君臨するのが、同じ国枝厩舎所属でデビューから無傷で連勝中の
コマンドラインだ。
果たして牝馬と牡馬とで仕上げに違いはあるのか? 競馬の神様はこれまた興味深いクエスチョンを競馬ファンに与えてくれたわけだが、少々意地悪なデータを持ち出すと、国枝厩舎は牡馬クラシックは未勝利。
コズミックフォース(18年ダービー)、
サトノフラッグ(20年
菊花賞)による2度の3着が最高で、牝馬3冠で計7勝(うち3冠馬2頭)の偉業からすると“競馬界の七不思議”に数えられてしかるべき話になってくる。昨年は牝馬の
サトノレイナスで果敢にダービーに挑戦。師のダービー制覇へのこだわりと夢に共感すら覚えたが、2番人気で5着と勝利の女神がほほ笑むことはなかった。
さて、肝心の
コマンドラインの現在地は? 新馬戦から絶大な評価(単勝110円)を集め、3馬身差快勝を決めた後には「来年のダービーの(騎乗)予約をした」とルメールが最大級のリップサービスで素質に太鼓判を押した逸材。順当勝ちとも言える2戦目の
サウジアラビアRCは522キロでの出走で、繊細できゃしゃなイメージが先行する牝馬とは正反対のパワフルホースだ。
「前走はルメさんがスローをうまく読んで、途中からスッと動いて行き、しまいもしっかりと伸びてくれた。あの内容なら距離が延びた今回のほうがいいと思う。操縦性が高い馬だからね」
国枝調教師は
ホープフルSの見通しを口にした後、こう言葉を続けた。
「まだまだではあるが、体は少ししっかりしてきたかな。530キロちょっとあるけど、太いわけではなくて成長分。今のところ期待通りにきているのがうれしいよね。大概は“すごい、すごい”と言われても途中で“あれっ?”ってなるケースが多いから(笑)。この馬の良さはメンタルの部分でも余裕があること。だから鞍上の意のままに動けるんだ」
16日の追い切りでは南ウッドで同厩
ブルメンダール(古馬1勝クラス)を大きく追走しながらも半馬身の先着(5ハロン65.9-12.3秒)。この調教内容に、最大の興味である牡馬に対する仕上げの答えも隠されている。
「牡馬の場合、負荷をかけてどこまで耐えられるかの見極めが重要になるんじゃないかな。牝馬は(気性的に)勝手に走るけど、牡馬は目覚めさせることも必要になってくる。能力があっても、調教での加減が大事なんだ。追い切り後の乳酸値の数値も良好。程度のいい負荷のかかった調教ができている」
国枝調教師が培った長年の経験と科学的根拠に裏付けられた極上調教で日々の鍛錬を重ねる
コマンドライン。
ホープフルSは悲願の牡馬クラシック制覇に向けた通過点でしかない。
(立川敬太)
東京スポーツ