「本当は“牡馬から選んで”って言われてたんですよ。でも僕がどうしてもこの子が欲しくて。オーナーに頼み込んで買っていただいたんです」
メイケイエール(
シルクロードS=30日、中京芝1200メートル出走予定)がデビューから3連勝で
ファンタジーSを制した時、武英調教師がうれしそうにそう教えてくださったのを思い出します。
「バネが素晴らしくて、ちょっと重心が高い感じ。一目ボレですね」
2019年のセレクトセールにて2600万円で落札。“選ばせてもらった馬”だからこそ、「勝たせなければ」というプレッシャーも相当なものだったそうですが、それだけに「重賞連勝時の喜びもひとしおだった」と武英調教師はおっしゃっていました。付きっきりで調教をつけていた
桜花賞前は「ジョッキー時代と同じくらいまで体を絞った」そうですから、彼女に懸ける思いの強さが伝わってきますよね。
そんな
メイケイエールに今まで乗った騎手は、福永騎手、
武豊騎手、横山典騎手、池添騎手…と手だれ揃い。その誰もが「簡単な馬じゃない」と言うように、ファンの皆さんにも「危うさをはらんだ馬」に見えているのではないでしょうか。
桜花賞18着以降の3戦の内容からも、それは確かかもしれません。ただ「どうしても気性が、気性がって言われちゃうんですけど…」と武英調教師は悔しそうな表情。トレセンで運動などをしている時の
メイケイエールはとてもいい子です。パドックでもそうですよね?
「走ることに夢中になっちゃうだけなんですよね。しかもスタートがあまり速くないでしょ。前走(
スプリンターズS4着)もだけど、普通ス
プリント戦であのくらい遅れたら、100メートルくらいはなかなか進んでいかないはずなんですよ。それなのにこの子は“行かなきゃ!”って感じでスイッチが入る。後れを取るのが許せない感じ。“そんなに序盤から全力で走ろうとしなくていいんだよ”って調教でも教えてるんですけどね」
そう、
メイケイエールの調教は前に馬を置き、それでもムキにならないよう、ゆったり運びながら徐々にペースアップしていく工夫がなされたもの。調教ではそれがきちんとできるようになっているのですが、やはり競馬は別物なんですかね。稽古でできることが実戦だとできない…陣営もその部分に頭を悩ませてこられたと思います。
「学習能力がないわけではないんです。実際、前走ではその前の2走が途中で動く形になったのを馬が覚えていて、同じ形で行ってしまった。すごく賢い子なんだけど、負けん気の強さがゆえに、いざ勝負となると調教で教えたことが飛んでしまうのかな。競走に対して生真面目過ぎるんですよね。これは例えですけど、ゲートを出てコケたとしても、たぶんすぐに起き上がって前を捕まえに行きますよ。本当にそういう子なんです」
暴走気味に捉えられてしまうことが多い彼女ですが、ファンの皆さんならきっと分かっていると思います。どんな馬にも負けたくないと必死になっているだけだって。
「こういう子だからこそ、たくさんの方々に応援してもらえてるのもあるんだと思います。何とか力を出せるようにしてあげたい。中間は折り返し手綱という馬具を用いて、より折り合いをつけられるよう努力しています。それに前走でジョッキーが何が何でも我慢することを教えて乗ってくれた。それがきっと、ここで生きてくると思っているんです」
馬房では“鬼の
ツンデレ”で、怒っているそぶりを見せているのに、近づくと甘えてくる
メイケイエール。そういう彼女のことを語る時の武英調教師の表情からは、いとおしさが伝わってきます。
メイケイエールの何が何でも勝ちたいという気持ち。それをかなえるべく、陣営が一丸となってサポートしてこられたここまでの過程が、どうか実を結んでくれますように!
(栗東の転トレ記者・赤城真理子)
東京スポーツ