アルクトスの名を全国区にしたレースといえば、2020年の
南部杯(盛岡)。その年の
フェブラリーSの覇者
モズアスコットとの叩き合いをクビ差で制し、1分32秒7(稍重)の日本レコードを叩き出した。そう、あの
クロフネが01年
武蔵野S(東京)でマークした1分33秒3の不滅と思われたダート1600メートルの大記録を19年ぶりに更新してみせたのである。そして21年の
南部杯も2馬身半差をつける横綱相撲で連覇を達成した。
舞台は左回りの高速ダート。東京を舞台にした
フェブラリーS(20日、東京ダート1600メートル)もまた
アルクトスがめっぽう得意にしているレース設定と同じはずなのだが…。一昨年、昨年と連続9着。むしろ苦手にしている感もあるのはいったいなぜなのか? 主戦を務める田辺はこう証言する。
「この時期(厳寒期)の不凍液がまかれた馬場は走りにくいんだ。だからいつも期待しているのに
フェブラリーSは結果がかみ合わない」
南部杯のパフォーマンスを見る限り、頂点に君臨できる能力を持っているのは疑いようがない。問題はその能力がフルに発揮できるか否か。これには馬場以外に臨戦過程も絡んでくる。
「調整が難しい馬なんだよね。脚元(右前の球節)に問題があって、特に大型なのでバリバリ攻めるわけにはいかない。そんな中で厩舎は本当によくやっていると思う」
田辺が指摘する問題は馬場と調整の2点。前者は運任せの面もあるが、週末に雨が降ってくれれば解決できる。脚抜きのいい馬場になれば、冬場の砂の乾きや不凍液の粘り気は関係なくなるからだ。そして後者はローテーションを再考することで解決済み。昨年の
フェブラリーS出走後は、レース間隔を十分過ぎるほど取って、
さきたま杯、
南部杯の2走のみ。陣営はレースを絞りに絞って、出走時に最高のパフォーマンスを発揮できるようシフトした。昨秋にJBCを
スキップしたのも、すべてはこの
フェブラリーSのためだ。
栗田調教師といえば昨年、
タイトルホルダーで
菊花賞を制し、
JRA・GIトレーナーの仲間入りを果たしたが、それに先がけてJpnIを制したのがこの
アルクトス。厩舎の名声を高めてくれた馬に対する思い入れは並々ならぬものがある。最高の仕上げで、最高の結果を――。そんな親心が見え隠れする。
鞍上の田辺は14年の
フェブラリーSで最低人気の
コパノリッキーを勝利に導いたミラクル男。そしてこの馬でも
南部杯で連覇(16、17年)を果たしているのも何かの因縁か。すべての歯車がかみ合った時、「北斗七星」を意味する
アルクトスも、まばゆいばかりの輝きを放つに違いない。
(美浦の胸に7つの傷を持つ男・垰野忠彦)
東京スポーツ