牧場サイドから見ても頼もしい存在だったに違いない。2月末で定年引退した名伯楽・
藤沢和雄調教師(70)。開業34年で国内外のG1・35勝を含むJRA通算1570勝(歴代2位)を積み上げ、数え切れないほどの名馬を誕生させた。近年でも
レイデオロ(17年ダービーなどG1・2勝)や
グランアレグリア(20、21年マイルCS連覇などG1・6勝)でターフを盛り上げたノーザン
ファームとの最強タッグが記憶に新しい。
「藤沢先生には全て見抜かれてしまう」と語ったのは福島県・ノーザン
ファーム天栄の木實谷雄太場長(41)だ。ひと区切りがついた今、改めて藤沢和師の“スゴさ”を教えてもらった。
「いつでもどこでも常に仕事を見られているような感覚でした。藤沢先生が牧場に来て直接馬を見ることはないのですが、入厩した馬の体、動き、息遣いで牧場での仕事を全て見抜かれてしまう。もちろん全頭同じようにチェックしているつもりですが、先生の馬には、より神経を使うようにしていましたね」
最近でもこんな出来事があったという。
「定年で厩舎の解散が迫っているなか、解散前に出走させようと、本来であればもう少し牧場で調整する馬を2頭ほど厩舎に送ったところ、先生から『いつも通り乗っていたのか?』と指摘されました。どんな時でも人間側の都合に合わせたりしない。最後まで妥協を許さない方だなと改めて思わされましたね」
藤沢和厩舎に在籍したノーザン
ファーム出身馬の中で、木實谷場長が最も記憶に残った馬を挙げてもらった。
「活躍馬もたくさんいて、当然印象に残っているのですが、いろいろな意味で特に印象深いのは
ネオレボルーションですね。成績を見てもらえればわかるように(2着14回)、とにかく自身の能力を発揮させるのが難しい馬でした。現役最後の方は坂路コースでも走っている途中で止まってしまうなど、藤沢先生の技術を持ってしても、うまく調教することができませんでした。常日頃から先生に『馬は天邪鬼(あまのじゃく)なんだぞ』と教えられているのですが、それを絵に描いたような馬でしたね(苦笑)」
最後に、希代のホースマンに惜別のメッセージを寄せてもらった。
「
レイデオロと
グランアレグリアで5年連続で
JRA賞受賞させていただきましたし、そういった高いレベルの、いい緊張感の中で一緒に仕事させていただき感謝しています。ただ先生のことだから、これからも競馬のことは見ているだろうし、携わっていくと思いますので、ご指導よろしくお願い致します」
(デイリースポーツ・刀根善郎)
提供:デイリースポーツ