今週の
阪神スプリングジャンプ(12日・阪神)に“障害王”
オジュウチョウサン(牡11歳、美浦・和田郎)が出走する。昨年暮れの
中山大障害V以来の今季初戦。1週前追い切りとなった2日には主戦の
石神深一騎手が手綱を取り、美浦Wで終始馬なりながら、6F87秒6-38秒4-11秒5のタイムで強めに追われた中、
テルツェット(牝5歳。今週の中山牝馬Sに出走予定)の内で併入。鞍上は「(中山)大障害の前に比べると少し物足りないけど、動き自体は良かったですよ」と順調な調整ぶりを伝えた。
無事に出走となれば障害レースでの最高馬齢出走記録(平地では
ミスタートウジンの14歳がJRA記録)となる。デビューは平地戦だったが、2戦未勝利で3歳の11月に障害入り。4戦目で初勝利を挙げると、通算12戦目となった16年4月の
中山グランドジャンプでJ・G12度目の挑戦にして重賞初制覇。そこから全て重賞(うちJ・G15戦)で9連勝。続けて18年夏の福島では、約4年8カ月ぶりに平地戦(
開成山特別)に
武豊騎手とのコンビで出走して話題をさらった。続く東京の
南武特別も快勝し、平地&障害11連勝の新記録を打ち立てた。さらにその暮れの
有馬記念には、堂々ファン投票3位で初挑戦。9着と敗れはしたが、2番手から直線いったん先頭に立ち、スタンドを沸かせたシーンは今でも記憶に残っている。
翌年の春は再び障害に戻って2連勝。その秋に再度平地に挑戦したが3連敗。翌年再び障害に戻った。連勝で
中山グランドジャンプ5連覇(同一重賞史上最多)を決めたが、続く
京都ジャンプSで3着。障害重賞13連勝(最多)でストップすると、そこから少し歯車が乱れた。レース中に左前脚を負傷していたことが判明して戦線離脱。5カ月ぶりとなった
中山グランドジャンプで5着。同レース6連覇を逃すと、その後に左前第1指骨剥離骨折が判明。復帰戦になった秋の
東京ハイジャンプでも3着に敗れると、さすがに進退がささやかれた。しかしそんな声を察したのか、続く昨年暮れの
中山大障害では、積極的な競馬から最後の3角で先頭に立つと、そのまま3馬身差をつけ、1年8カ月ぶりのV。入場制限中ではあるが、その中での場内からの精いっぱいの大きな拍手に包まれたシーンは感動的だった。
勝てば障害重賞15勝目、7年連続障害重賞Vと自身が持つ最多記録を更新する。担当するベテランの長沼昭利厩務員は笑う。「ケガをしたのもあるけど、年齢もあって、いくらか丸くなってきたかな。それでもまだ半分かな。仕事に行くのが憂うつで怖かったよ。体に触ろうもんなら襲ってくるからね。もう怪獣。6歳の頃が一番だったかな」。そう言いながらも表情はうれしそうだ。もちろんオジュウ自身のそんな激しい気性、闘争心があってからこそだが、周囲が愛情を持って粘り強く接してきたからこそ、長い間、走り続けてこられたのだろう。
苦楽をともにする主戦の
石神深一騎手もそう。「今回は
ステップレースだけど、使う以上は負けたくない。ファンの皆さんと同じで、自分もオジュウが負ける姿はもう見たくないし、乗っていて先頭でゴールしなきゃ嫌ですからね」と気合を入れると、「
オジュウチョウサンは人の心を動かす馬ですね。もう一緒にいられるのも、そう長くはないと思うし、その時間を楽しみたいですね。得意の舞台(17、19〜20年V=3戦3勝)だし、信じて乗りたいです」とキッパリ。
障害レースでの最高齢Vは、豪州から遠征してきた
カラジが、07年
中山グランドジャンプを3連覇(05年〜)した時の12歳が記録。日本馬では
ロードフラッグ、
スマートギアの11歳(平地では10歳)がある。馬の11歳は、人間で言えば37〜38歳と言われる。この春、定年引退した
藤沢和雄元調教師は話していた。「大切に育てて行けば、馬は必ず答えを出してくれる。健康で丈夫な馬をつくるのが我々の仕事」。引退の危機を乗り越え、昨年の
JRA賞最優秀障害馬(史上最多4回目)のタイトルを取り戻した
オジュウチョウサン。競走馬として残された時間はどのぐらいか分からない。1番人気で臨むであろう今回の舞台は、関係者に大切にされてきた証し。2022年、オジュウの新たな戦いが始まる。(デイリースポーツ・村上英明)
提供:デイリースポーツ