第52回
高松宮記念(27日=中京芝1200メートル)にエントリーしている
メイケイエールにどんなイメージをお持ちだろうか? 制御不能な暴走娘。多くの競馬ファンが真っ先にそう思い浮かべることだろう。一方でキャリア9戦ですでに重賞4勝を挙げているのだから、そのポテンシャルは半端ない。果たして前哨戦の
シルクロードS快勝は「制御可能な快走娘」へと変貌を遂げた証しなのか? 「番記者」西谷哲生が迫った――。
名馬の軌跡を改めて振り返ると、「ターニングポイント」と呼ばれるレースがあるものだ。例えば2011年の3冠馬
オルフェーヴルのそれは同年の
きさらぎ賞(3着)。底知れぬ能力と気性の危うさが同居する馬ゆえに「無理をして(前を)追いかけると次につながらない。
きさらぎ賞で我慢の競馬をさせたからこそ、
皐月賞、ダービーを勝つことができた」と管理していた池江調教師はこの一戦を評している。そう、ターニングポイントになったのだ。
その
オルフェーヴルの主戦を務めた池添とのコンビで
高松宮記念に挑む快速牝馬
メイケイエールは、普段はおしとやかなお嬢様だが、競馬に行くと猛女に豹変――。特異な二面性を持つ彼女のターニングポイントこそ、他ならぬ前走の
シルクロードSになるのではなかろうか。
「普通に考えれば、もっともっと収まりという部分が欲しいですし、欲を言えば、(注文を付けるところは)まだまだたくさんあるんですけど…。これまでの競馬ぶりと比べると、明らかに進歩がありましたよね」
こう
シルクロードSを振り返るのは管理する武英調教師。馬具の試行錯誤はもちろん、横木をまたがせて近くにも意識が向くよう工夫をするなど、これまでが苦心の連続だっただけに、その喜びもひとしおだ。
「パシファイアーの効果でゲート裏の落ち着きが違いましたし、行きだした時に折り返し(手綱)でギュッと押さえられました。ハミもチェリービットという特殊なものに。かみに来た時に
クルクルと回る遊びのあるものなんですが、それら全部がうまくマッチしたのかなと」
その
ハイライトが3角手前のシーン。外から
ビアンフェがハナを主張してきた瞬間はやや行きたがったものの、以前のように制御不能に陥ることはなかった。
「今までの経験で、これだけかかる馬は見たことがなかったんですけどね。大体ああいうふうに収まるところが出てきた馬はそれから良くなっていくので。またガーッとかかるというより、もうちょっと収まるのが早くなったりしますよね」
前向き過ぎる気性に加え、手脚の長さ、可動域の広さから他馬との間合いが取りづらく、これが乗り難しさに拍車をかけていたという。そんな
メイケイエールが“普通に競馬ができていた”。前走の価値はまさにそこにあるし、それだけで視界は一気に広がってくる。
その成長ぶりは普段の様子にも表れており、「最近は体が減らなくなっているんです。以前は必ずカイ食いが落ちていたんですけどね。そのあたりも変わってきた部分かな」とトレーナーは自信を深めている。
その一方で若き指揮官に慢心はなく、「前走でもまだ6、7割くらい。これまで本当に苦労してきましたから、あの一戦だけで“今回も…”と簡単には言えませんよ。だからこそ、僕は油断しません。でも大丈夫、やれることをしっかりやっていくだけですから」。
メイケイエールの能力を信じ続けてきた陣営の努力が、最高の形で実を結ぶ瞬間。それが
高松宮記念でのGI初制覇になる予感に駆られて仕方がない。
(西谷哲生)
東京スポーツ