競走馬たちを理解したいといくら思っても、普段、彼らに触ったり乗ったりできない側の人間からすれば、それは難しいことのように思えます。
こちらが思ってもみないようなもので驚き、時に突然怒り、かと思えば馬房では子供のような表情を見せたりもする馬たち。一方で競馬場では闘争心のよろいをまとって怖いくらいの迫力を見せ、私たちを競馬にのめり込ませる――。言葉を持たない彼らの内面を知りたくて、ファンの皆さんにも伝えたくて、担当者や乗り役の皆さんにお話を伺う毎日です。
「難しく考えなくていいんですよ。競走馬も感情と個性を持つ生き物なので、僕ら人間に当てはまることがたくさんある」
そう言いながら、いつも調教をつけている
リメイク(
ユニコーンS=19日、東京ダート1600メートル)について教えてくださったのは新谷厩舎の攻め専・松田助手です。
調教から帰ってくる
リメイクを待っていた時のこと。目が合った瞬間にすごい勢いでいななかれたので、「見慣れない人間が来たから興奮させちゃったかな」と少し不安になりました。でも、松田助手は涼しい顔で「それ、
リメイク流のいつものあいさつですから」
ラニの初年度産駒として新谷厩舎にやってきた
リメイクは、気性が激しいとされていた父の性格をいい意味で受け継ぎ、当初から負けん気の強さが目立っていたそう。何度かコンタクトを取って松田助手が感じたのは「この子は褒めて伸びるタイプだな」と。担当の榊原丈厩務員も同じ意見で「怒り過ぎると逆ギレして、まるで手がつけられなくなるからな。ヤンキーや」と笑います。
ヤンキーはヤンキーでも松田助手が調教で要求したことには一つひとつしっかりと応えてくれるという
リメイク。走り自体は真面目なら、普段のやんちゃっぷりは「ご愛嬌でしょ。本当に悪いことをすれば叱るけど、そのくらいは人間側が譲歩してあげないとね」。松田助手は
リメイクにとっての先生なのかな。
そんな
リメイクですが、過去に経験した距離は全て1400メートルで、1600メートルは走ったことがありません。なので中間、松田助手が
リメイクに課した一番の課題は「折り合いと操縦性」。デビュー時から人と馬の重心が一体となるよう意識して乗ってこられた
リメイクは「体幹のしっかりした姿勢のきれいな馬」になるようトレーニングされてきました。まだそれは完成途上とのことですが、そんな中でも
リメイクは課題を着実にクリアしつつあるようです。
「前走(
端午S)ではジョッキー(福永)が1600メートルを見据えた競馬をしてくれて。馬混みでジッと我慢させ、最後にはじけた。ジョッキーが競馬でしか教えられないことを教えてくれたなら、僕は調教でしか教えられないことを教えていくだけです」
正念場となる初重賞の舞台ですが、
リメイクには「父譲りの気持ちの強さ」と「体幹の強さ」以外に、松田助手と榊原丈厩務員が口を揃えて断言するもう一つのストロングポイントが…。
「人にはあまり興味がないけど、馬が大好きなんです。だから前に馬がいれば、うれしがってついて行くし、馬混みもへっちゃら」
こんなところで終わる馬じゃないと陣営が確信している能力に、この性格。たしかにちょっとくらい“ヤンキー”でも許してあげなきゃですね!
(栗東の転トレ記者・赤城真理子)
東京スポーツ