記者にとって函館の風物詩といえば、高橋裕厩舎の島田助手。派手なジャンパーをまとい、時には声を張り上げて稽古をつける姿を見ると函館に来た、と感じる。
最初の出会いは2年前。デビュー前の
ルーチェドーロを取材したのがきっかけ。追い切りの抜群の動きを見て「勝てると思うんですけど」と聞いた記者に「新馬戦はそんなに簡単なものじゃないよ」と一喝された。その後も懲りずに厩舎に通うと「スタートは速いし、気性も素直だから、確かに稽古通りなら勝ち負けできるかもしれない」と
トーンアップ。レース(ダート1000メートル)でも7馬身差の圧勝を飾った。次戦芝に挑戦した
函館2歳Sでも2着と健闘し、馬券でもお世話になった。
今年の開幕週の函館出張の際も島田助手のもとを訪ねると「ここは地元なのもあって、毎年来させてもらっているけど今年で定年だから北海道もいよいよ最後だ」と聞いて驚いた。その函館で担当するのが
函館2歳Sの
ニーナブランド。稽古では僚馬に遅れることが多く、初戦は厳しいと思っていたが、抜群のスタートからハナを切り、直線後続を引き離して快勝。
「美浦では乗っていなかったけど、追い切りではテンからかかってお釣りがなくなると言われていたから、そういうところを解消したいと思って接してきてずいぶん乗り手に従順になってきた。競馬でどうかなと不安はあったけど、しまいバテるどころか逆に引き離してえらいなと思った」と島田助手。重賞挑戦が実現して最後の夏がさらにアツくなった。
函館が地元の島田助手は中学卒業後この世界へ。「丁稚奉公の形で最初にお世話になったのが矢倉玉男先生。それから野平祐二先生などにもかわいがってもらって、馬のことをたくさん教えてもらった。その当時に携わった
カシュウチカラが一番、思い出に残る馬ですね。天皇賞や
目黒記念など大きなレースを勝たせてもらえた。その後も
柄崎孝先生のところで
ドクタースパートや
トーワトリプルなどに携わらせてもらって、高橋裕厩舎でも
カルリーノや
ルーチェドーロを担当させてもらい、人にも馬にも恵まれた」と感謝の言葉を口にする。
放牧を挟んだ
ニーナブランド(
函館2歳S=16日、函館芝1200メートル)は島田助手を背にウッドで1週前追いを敢行。「少し時計は速かったけど、時計のかかる馬場に順応していたし、余力もあるなかでこれだけ動けるということは状態もいいんじゃないかな。
テンションも上がることなくこれています」と納得の表情。「
ルーチェドーロはデビュー前から走るなと思っていたし、2歳Sも頑張った。あの馬が最後だなと思っていたけど、おかげさまでまたこういう馬に出会えた。出るからにはそれなりにチャンスがあると思っているし、競馬はやってみないとわからない。
ゴールデンアイなんて
函館記念(93年)でまさか勝つと思わなかったからね」
さらに「横山家とは縁があって、富雄さんの時に
リュウフブキで、息子のノリ(典弘)には
ミシシッピーハートを勝たせてもらい、武史くんは
ルーチェで勝ってくれて。今回は和生くんでしょう。こういう巡り合わせがあるんだね。地元(の大舞台)で最後にまた競馬をさせてもらえるのはありがたい」。
半世紀にわたる競馬人生を歩んできた島田助手が
ニーナブランドとともに迎える函館の
ラストサマーを、心から応援したい。
(函館の最後の夏見届け野郎・松井中央)
東京スポーツ