セレクトセール(11、12日)の取材へ現地に足を運んだのは実に6年ぶりのことだった。この国内最大のビッグセールは生後間もない有力馬の熱感を最前線、そして最速で感じることができる。同時に相変わらず“億超え”続出となる経済の
ダイナミズムに圧倒される時間でもあった。
一方で世代最初の2歳重賞・
函館2歳S(16日)を制したのは、そのセレクトセールの落札価格が2000万円(20年当歳)の
ブトンドール。ちなみに出走馬13頭中9頭がセール出身だったわけだが、最高額でも8着
スプレモフレイバーの3800万円(20年セレクトセール当歳)止まり。皮肉にも値段が競走成績に直結しないことをわずか数日後に行われた重賞が示していた。これこそが競馬の難しさであり、面白さなのだろう。
そんなことを考えながら函館で2歳馬の取材を続けていたところ、派手な血統背景や取引価格などといった話題性こそなくても、やたらと調教の動きが目を引く馬に出会った。土曜(30日)札幌芝1500メートル新馬戦に鞍上・丸山で出走予定の
ユイノシノビアシ(牡=父
グレーターロンドン、
母シーガルサリー・竹内)である。
異彩を放っていたのが20日の函館ウッドでの追い切り。3歳未勝利馬を大きく追走し、ゴールでは半馬身差にまで迫ってみせた。5ハロン67.6-12.4秒の数字以上にスピード感に満ちた走り。ラストもまだ脚は上がっておらず、時計はまだまだ詰められたと言い切れる。
「デビュー戦が(形態がト
リッキーな)札幌の1500メートルなんで、前を見ながらコーナーを確認しつつ乗りました。結構速いペースでしたけど、コーナリングが良かったし、最後も余力があっていい感じでしたね。(適性は)1200メートルではないし、1800メートルも少し違う。器用に走れるタイプで(直線で)手前を替えてからはハンドライドだけでスピード感も十分でした。舞台はピッタリだと思います」とは騎乗した中島助手だ。
その前週までの追い切りに騎乗した丸山からは“まだ緩さがある”と厳しい
ジャッジも届いていたというが、半姉
カナイアンゼン(3歳未勝利)と比べれば断然しっかりしているそうで、初戦から力を発揮できる態勢にあるのは間違いない。
「牧場から直接函館に入って、2日でゲート試験に合格したように学習能力が高いし、姉のように体質が弱いこともないので順調に調教を進められました。最大のセールスポイントは真面目なところ。単走でもしっかり動けるし、追ってからもしぶとい」と中島助手はフィジカル、メンタル両面での強さを証言する。
新種牡馬
グレーターロンドンの産駒は3日に
JRAでの初デビューとなった
ロンドンプランがいきなり新馬(小倉芝1200メートル)勝ちを決めたほか、これに先立つ先月29日には公営・園田で
アズグレーターが7馬身差圧勝を飾っている。派手な要素はなくても、魅力たっぷりの若駒
ユイノシノビアシの初陣には大いに注目してほしい。
(立川敬太)
東京スポーツ