約3カ月にわたる初の海外武者修行から帰国した
大野拓弥騎手(36)=美浦・フリー=が、その成果を発揮すべく、秋の本格的な競馬シーズンへ意欲を燃やしている。
安田記念が終わった6月上旬に単身フランスへと渡った。「そろそろ他の国の文化や、価値観の違いなどを感じたかった。それに、違った場所での競馬にも乗ってみたいと思って」というのが主な理由。ただ、2005年にデビューしてから今年で18年目。18年に自己最多の年間75勝をマークしたものの、その後は51→35→53勝と成績を伸ばすことができず。新たなチャレンジをきっかけに、もうひと皮脱したいー。そんな思いもあったはずだ。
そのために早くから準備をスタート。昨年夏から語学学校に通い、競馬の合間には、
武豊をはじめとする海外経験豊富な先輩ジョッキーを質問攻めにしてきた。と、同時に「頑張ってこい!」と背中も押された。
パリ郊外の
シャンティイを拠点とし、現地で活躍する
小林智、
清水裕夫両調教師のサポートを受けながら、フランスを中心にドイツへも遠征。大小含めて13もの競馬場で騎乗した。渡仏直後の6月12日には、海外初騎乗初勝利という華々しい“デビュー”を飾った。それもあって、同じオーナーの馬でフランスの
オークスにあたるG1・ディアヌ賞にも参戦。人気薄を5着に導いて存在感をアピールした。
「
シャンティイの調教場は森の中で、こっちのトレセンみたく整備されていないので、慣れるまでが大変でした。起伏に富んだ、いろいろな競馬場を経験できたのも面白かったですね」。今回の遠征では通算26戦2勝という成績を残した。
8月31日に帰国。久々に会ったその顔は真っ黒に日焼けし、充実した日々を送ってきたことがすぐに分かった。調教では「新人の時以来」と、最初の馬装から最後の手入れまでを自らで行ったそうだ。「日本にいる時より馬に触れている時間が長かったし、日本では感じることができなかった部分も多く、いろいろ勉強になりました」とうなずいた。とはいえ、大部分は四苦八苦の日々。「トラブルばかりでキツかったっすよ。システムが全く違うしね。あとは言葉。競馬は専門用語ばかりだし、まずはコミュニケーションを取るのが大変でした。伝えたいことが伝えられなかったことも多くてね。それに食事も。ご飯が食べたくなったら、お米を買って自炊してました。みそ汁はインスタントを持って行ったので。やはり、ご飯とみそ汁ですね」と笑った。
3日の新潟競馬で復帰すると、10日の中山6Rで復帰後初V。その2日前には36歳の
バースデーを迎えた。「改めて語学の必要性を感じたし、得るものは大きかったですね。今はやり切った感じが強いけど、また行きたいという意欲も高まっています。ホントに、かけがえのない経験ができました」。その探究心は増すばかりのようだ。
後輩ジョッキーを含め、海外遠征未経験の仲間へのエールも忘れない。「素晴らしい刺激を受けたし、今は行って良かったなと思っています。他のジョッキーにも、ぜひ行ってほしいですね」。
考えるだけでは始まらない。まずは行動すること。それをやってこなかった定年前の記者には耳が痛かったが、この秋だけでなく、これからの飛躍を楽しみにさせてくれる、貴重な取材の時間だった。(デイリースポーツ・村上英明)
提供:デイリースポーツ