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【追憶のスプリンターズS】91年「華麗なる一族」栄達の時 ダイイチルビー、名手の導きでスピード全開

スポニチ
  • 2022年09月28日(水) 07時00分
 「華麗なる一族」とは輸入牝馬マイリーを始祖とする牝系に付けられた異名。山崎豊子の小説から借用したものだが、この一族はあふれるスピードを持つと同時に、どこか破滅的な危うさも秘めていた。それが「華麗なる」の形容にふさわしく、一族の華やかさをいっそう引き立てた。

 スプリンターズSは91年当時、有馬記念の1週前となる暮れの開催だった。この年は12月15日。1番人気は4月デビューの3歳馬ケイエスミラクル。デビュー8カ月ながら、2走前にスワンS勝利、前走は距離が長いと思われたマイルCSで3着に好走。ベスト距離で巻き返しを期待されていた。2番人気が「華麗なる一族」の本流(イットー〜ハギノトップレディ)を引き継ぐダイイチルビー。古馬になったこの年、才能が完全に開花。1月から8戦3勝、重賞3勝。ただ前走のマイルCSでは1番人気に推されながら出遅れて2着。ダイタクヘリオスのG1初戴冠を許した。隙なしに見えてもどこか危うい。それは名手・河内洋をもってしてもそうだった。

 「とにかくスタートだけはね」と河内。ダイイチルビーはゲートに入るときょろきょろしたり、後ろにもたれたり…とどうも落ち着かない。早く走りたいと気がせくタイプだった。マイルCSはそれが悪い形で出てしまったが、このスプリンターズSでは五分のスタート。河内も「あれでホッとした」と最大の関門をクリア。「枠順も(後入れの)偶数で、外寄り(12番)なのも良かったね」。

 あとは名手の思うがまま。「ゴチャつくのが嫌だから一度下げて外めに出した」と追走ポジションを決め、4コーナーでは「ケイエスミラクルがいい感じで上がっていたのは分かっていた。あの馬が怖かったし、外を回すのではなく馬群の中に入れて運んだ」。電撃6ハロンと言われる距離でも、決断の場面は少なくない。「イメージ通りのレースができた」と、その全てに正解を出し、ダイイチルビー安田記念以来、2つ目のG1優勝に導いた。

 この優勝でダイイチルビーは4億2571万1600円を稼ぎ当時の賞金女王となった。華麗なる一族、栄達の時だった。

 栄達の陰に、悲劇があった。ゴール前300メートル、勢いよく伸びていたケイエスミラクルが急失速。左第一趾骨粉砕骨折で予後不良(安楽死)。当時を知る人は「立ってはいたけど、一目見てだめだと分かった」と。外国産馬ケイエスミラクルは前年の秋に来日。千葉県の牧場に入厩したあと高熱が続き、一時は獣医師が関係者に「覚悟してください」と伝えたほど悪化。そこから奇跡的に回復し、遅れたデビューからの快進撃だったが、悲運のアクシデントに見舞われて短いキャリアを終えることになった。

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