追い切りといえば、週中の水〜木曜に、週末を加えた週2回ペースで行われるもの。そんなイメージをお持ちではないだろうか? もちろん、それは間違いではなく、実際、多くの競走馬がそんなルーティンをこなしてレースへと臨んでいる。
そんな中、異色な調教過程で
エリザベス女王杯(13日=阪神芝内2200メートル)に挑む馬がいる。
ウインマイティーだ。今夏、2年2か月ぶりの復活Vを決めた
マーメイドS以降、主体となっているのは週1回の金曜追い。独特過ぎる調整方法を採用しているのは一体なぜなのか──。
すくみ。筋肉が損傷して歩様に乱れが出ることなどを示す。この症状に
ウインマイティーは長く悩まされ、それが低迷の要因にもなっていた。
「
マイティーの場合、(トレセンの全休日明けとなる)火曜にすくみが出ることが多かったんです。それなら火、水、木はすくまないように、ほぐすとか、落ち着かせるとか、そういうところに時間をかけたほうがいいんじゃないかと」
こう話すのは厩舎の攻め専・五十嵐助手。
ウインマイティーに寄り添った調教を考えた時、“トレセンの常識”週2回の調整が本当にベストなのか? 試行錯誤の末に、たどり着いたのが今の
スタイルだった。
「無理して週2本時計を出すよりは金曜1本を主体に。そうすれば土曜に引き運動、日曜に追い切った後の反動を確認して(全休日の月曜は)休ませればいいわけですから」
復活の呼び水として脚光を浴びたポリトラック追いやプール調整の効果も相まって、「(
マーメイドS以降)一度もすくんでいないんじゃないかな」と五十嵐助手が胸を張るほどの確かな成果を生み出し、そのいい流れは今秋にもしっかりと引き継がれている。
前走の
京都大賞典は五十嵐助手いわく「順調過ぎて、逆に不安になるくらいでした」。結果的には3着と勝利にはあと一歩届かなかったとはいえ「叩き良化型の休み明け、しかも強豪男馬相手と懸念材料もあった中で、こらちの予想以上の走りを見せてくれました」。そう、押せ押せムードで大一番に臨む。
「何が正解なのか、分かっていたわけではないんです。それでも何とかしてまた走るようになってほしいなって。そんな思いでいろんなことを試して、試して…。たまたまですけど、それがうまくハマってくれたんです」
しみじみとこう話す五十嵐助手をはじめとする関係者の真っすぐな気持ち。それこそが
ウインマイティー復活の一番の薬だったのではないか。2年以上の雌伏の時を経た末のGIタイトル奪取。その瞬間を夢見るファンもまた多いことだろう。
(栗東の馼王野郎・西谷哲生)
東京スポーツ