◇鈴木康弘「達眼」馬体診断
地方馬の24年ぶり
JRA・G1奪取へ。快挙をもたらすのはカミソリの切れ味だ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。冬のダート王決定戦「第40回
フェブラリーS」(19日、東京)では公営・浦和所属の
スピーディキックをトップ採点した。達眼が捉えたのは東京マイル戦に
フィットしたシャープな体つき。水沢の
メイセイオペラ(99年
フェブラリーS)以来の中央制圧も夢じゃない。
求めていたもの、期待していたものとは違う意外なものに出合えることを魚網鴻離(ぎょもうこうり)といいます。魚を捕らえようと網を張っていたところ、鴻(大きな雁=がん=)が掛かったことから転じた言葉です。深いダートで知られた公営・南関東(川崎、大井)の重賞をぶっちぎりで3連勝し、勇躍として中央に初参戦する
スピーディキック。その戦績から厚い砂をかき込んでナタのような切れ味を発揮する重厚な体を期待していました。だが、その馬体を見てみると…。細身でシャープ。カミソリのような切れ味を発揮するしなやかな体つきです。
細い首差し、薄手の腹袋、流麗な曲線を描いたスマートなトモ…。100人のホースマンが見れば、恐らく100人とも(私を含めて)芝馬だと勘違いするでしょう。ダート馬らしさをのぞかせるのは胸前の発達した筋肉ぐらいです。こんな細身の体で
地方競馬の重たいダートをよく走ってきたものだと思う。
芝体形のダート馬。数年前にも見た記憶があります。書斎の本棚にしまい込んでおいた過去の馬体写真の束をめくってみると…。この馬によく似たスマートなトモを持ったダート馬が目に留まりました。写真の
キャプションには
ノンコノユメ。5年前の
フェブラリーS優勝馬です。
中央のダートは
地方競馬と違ってスピードと切れ味が要求される。特に
フェブラリーSの舞台、芝の部分からスタートする東京ダート1600メートル戦はその両方が
パワー以上に厳しく問われる。
ノンコノユメ同様、
スピーディキックもシャープな芝体形を生かせる舞台です。
メンコで覆われているため耳の形は不明ですが、神経質そうな目がメンコの間からのぞいています。鼻こうを開き、尾は体から少し離している。緊張して少し力んでいるのです。牝馬らしい繊細な気性の持ち主なのでしょう。入場制限が緩和された東京競馬場の大観衆を前に平常心で走れるかが課題。初めて経験する
JRA・G1のにぎわいにのまれなければ通用すると思う。岩手の
メイセイオペラ(99年
フェブラリーS)以来となる地方馬の
JRA・G1制覇も夢物語ではありません。
魚網鴻離。鴻は冬の旅鳥です。「雁渡し」と呼ばれる北風に乗って大きな翼を広げます。木枯らしに乗って
地方競馬場から渡ってきた旅馬も翼が生えたように加速できる。シャープな馬体がそう告げています。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長を務めた。
JRA通算795勝、重賞は
ダイナフェアリー、
ユキノサンライズ、
ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。
スポニチ