「世界のYAHAGI」が
アラビアンドリームをかなえた。サウジアラビア国際競走のG1「第4回
サウジカップ」は25日、首都リヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で13頭で争われ、最内1番ゲートから先手を奪った
パンサラッサ(牡6=矢作)が直線、粘りに粘って3/4馬身差で逃げ切りV。日本馬として歴史的初勝利を収め、世界一の超高額決戦で1着賞金1000万ドル(約13億5000万円)をものにした。この日、日本馬は計3勝。また、今月いっぱいで引退、調教師に転身する
福永祐一(46)はラス
トライド2鞍で12着、3着だった。
「世界のYAHAGI」がまた偉業を成し遂げた。逃げ切り狙いで直線に向いた
パンサラッサが持ち味のしぶとさをフルに発揮する。迫られはしても二枚腰で抜かせない。米国馬
カントリーグラマーを3/4馬身差で振り切って、歴史的勝利のゴールに飛び込んだ。
馬上でインタビューを受けた殊勲の
吉田豊は「やりました!」と何度も
ガッツポーズ。夏に定年を迎えるベテラン池田厩務員はゴールの瞬間、崩れ落ちるように号泣した。そして感無量の面持ちでスタッフの肩を抱く矢作師。歓喜の輪が広がる。矢作師がみんなの思いを代弁した。
「
吉田豊ジョッキーのスタートが素晴らしく、今日は完璧なスタートを切りました。1番枠を引いたとき、アドバンテージになると思ったし、実際そうなりました。こんな結果が出るとは信じられません。スタッフと馬に感謝したい」
発馬で後手に回れば、もまれるリスクのある最内枠で
ドンピシャのスタートを決めた。出脚がついて前へ。ダートの経験は1回(20年
師走S11着)しかなかったが、むしろ芝より行きっぷりがいいのでは…と思えるほど
フィットしたフットワーク。終始、絶好の手応えでラップを刻んだ。
昨年
ドバイターフで同着Vを飾った芝の実績馬。12月に
サウジカップ参戦の意向を発表した際に「やってみないと分からないけど自分の感性では馬場は合うと思う。サウジは本質的に先行有利なので面白い挑戦になる」と適性を口にしていた。思い描いた通りの会心V。矢作マジックと称される用兵がズバリはまった。
挑戦し続けることが矢作厩舎の
スタイルだ。一昨年、
ラヴズオンリーユーと
マルシュロレーヌで参戦した米競馬の祭典ブ
リーダーズカップで日本馬初勝利。一方、その年は
JRAリーディング2位に終わり、首位を明け渡した。さらに看板馬
コントレイルが引退。「厳しい年になると思った」と覚悟しつつ、昨年も積極的に海外に打って出た。サウジ、ドバイ、英国、仏国、香港へ。それでいて国内でも勝ち星を積み重ね、
JRAリーディングを奪回。今回の
サウジカップ挑戦にも野望があった。「日本馬の最高着順は(
ゴールドドリーム、
マルシュロレーヌの)6着なので勝つことは日本競馬にとってセンセーショナルなこと。ぜひとも達成したい」。有言実行のタイトル奪取となった。
次の
ターゲットは既に招待を受諾済みの
ドバイターフ(3月25日、メイダン)か、この勝利を受けて同日の
ドバイワールドカップでダート続戦か。「オーナーと相談して決めたい」と矢作師。いずれにしても、日本が誇る二刀流ホースが世界のホースマンに注目されるのは間違いない。
◇矢作 芳人(やはぎ・よしと)1961年(昭36)3月20日生まれ、東京都出身の61歳。日本有数の進学校、開成高校を卒業後、
オーストラリアに渡り武者修行。帰国後の84年、栗東トレセンに入り、厩務員、調教助手を経て04年、14度目の挑戦で調教師試験に合格。05年3月に開業して5日の阪神1R・
マルタカクインで初出走(9着)、26日中京9R・
テンザンチーフで初勝利。
JRA通算8152戦798勝、うち重賞57勝、GIは12年
日本ダービー(
ディープブリランテ)、19年
有馬記念(
リスグラシュー)、20年
コントレイルの3冠制覇など14勝。
◆一口あたり サウジCの賞金1000万ドルは、日本の競馬と配分が違って馬主70%、調教師、騎手、厩舎にそれぞれ10%。オーナーの広尾レースはクラブ法人で、
パンサラッサは1口あたり2万5000円で2000口の募集だった。今回、1口あたりの賞金割り当ては、諸経費など別にした単純計算で約47万2500円。
スポニチ