GIII
中山牝馬S(11日=中山芝内1800メートル)といえば、昨年のゴールシーンが鮮明な記憶としてよみがえる。中団で脚をためた15番人気の“超伏兵”
クリノプレミアムが外から襲いかかり、先を行く1番人気の
ミスニューヨーク(3着)をゴール前で捕らえた。その刹那、コ
ロナ禍で控えめながら、中山競馬場にはファンの「あ〜っ」という悲鳴にも似た声が…。本命党にはこう映ったに違いない。まさに「白覆面の魔王」と。
トレードマークのメンコは、わが国に旋風を巻き起こした往年の名レスラー、ザ・
デストロイヤーさんの覆面にそっくり。馬群に飛び込むことをいとわず、闘争心をむき出しにしてゴールに突き進む。その激しいファイト
スタイルも“本家”をほうふつさせる。
ただ一点、違うのは人気だけ。リングのみならず、お茶の間でも人気者だった本家に対して、こちらはいつも人気薄。昨年の
中山牝馬S以降も
福島牝馬S2着(6番人気)、
京成杯AH3着(7番人気)、
中山金杯2着(7番人気)と「右回りのGIII」ではすべて複勝圏内を維持しているにもかかわらずだ。
「なんで毎回、人気がないんだろうね。僕はこの馬の能力を信じているから、いつも走ると思っているんだけど」
レース後、伊藤伸調教師が担当記者に冗談めかしてボヤくのは、もはや定番になっている。
敬遠されるのは父
オルフェーヴル譲りの気性の激しさゆえか。振り返るとサマーセールの比較展示で放馬したり、入厩後は馬房の壁をよじ登るなど、「おてんばエピソード」には事欠かない。ゆえにレースでは折り合いが最大のカギになっていた。ここにきて成績が安定してきたのは、年齢を重ねて大人になったこともあるが、厩舎の工夫も大きいのだろう。
「やればやるだけ時計が出る馬だけど、それだとスイッチが入ってしまうんだ。レース前に燃え過ぎないように、乗る時にはできるだけソローッと運ぶようにしている」とは蛭田助手。補足するように伊藤伸調教師も「この馬は1本やり足りないと思うくらいでちょうどいいんだよね」と調整法の秘訣を明かす。
この中間の調整過程もまた同様で順調そのもの。前年の覇者として出走する今年も評価が低ければ、馬券的妙味たっぷりとなるが…。さすがに今回はマークされるんだろうな。
(美浦の白覆面の魔王・垰野忠彦)
東京スポーツ