「抱きしめた時の感触が前走時とは違うんですよ。牝馬らしからぬ幅があって、本来のロータスに戻ってきたなあ〜って、うれしく思います」

　ロータスランドの橋本助手からそうお聞きした時、普通に流してしまいそうになりながらも、ふとペンが止まりました。

「抱きしめておられるのか…」

　担当馬をとても大切にする橋本助手らしい言動にほほ笑ましい気分に。記者がニヤニヤしているのがマスク越しにも分かってしまったのか、橋本助手は「いやいや、だって腹帯とか着ける時にさ、向こう側に回さないとあかんから、こうギュッと…抱きしめるやん」。

　毎日、担当馬にまたがり、体を洗い、毛並みを整え、疲れがあればケアをして…。そういう日々を過ごしているからこそ、トレセンの助手さん、厩務員さんたちは競走馬のわずかな変化にもすぐ気付きます。何が好きで、何が嫌いで、何が怖いのかも。はたから見ている立場からすれば、ホースマンの皆さんは馬としゃべれる特殊能力を身につけているのではないかと思えるほどです。

　ご存じの方も多いかもしれませんが、ロータスランドは後ろから見るとお尻が真四角に見えるほど“超ムキムキ”ボディーなのが特徴のひとつ。厩舎の方も「人間に例えればプロレスラーみたいな体形」と言うほど、筋肉で武装している女の子なんです。でも、前走の京都牝馬Sの前は素人の私でさえ、少し体が小さくなったように見えました。

　毎日、彼女を触っている橋本助手はより顕著に感じていたようで「筋肉が緩んでいたし、またがった時もいつものロータスと比べたら薄い感じがして…。レースに向けての調整は結構、苦労しました」。それでも、レースでは今までと打って変わった脚をためる競馬で、インからグイグイ伸びて3着に食い込んだんだから、すごい馬ですよね。

　実はレース前、テン乗りだった岩田康騎手が「俺、スワンS(6着)でも阪神C(9着)でも見てたから、どんな馬か分かってる。作戦もバッチリ立ててるよ」と口にしていたそうなんです。「見ていたというか、ウチのロータスをものすごい勢いで突き放してましたけどね」と辻野調教師は苦笑いされていましたが…。康誠騎手は前述の2つのレースで勝ち馬ダイアトニックに乗りながらロータスランドのレースぶりまで…。息子である望来騎手のお手馬だから気になっていた？ いえいえ、これはきっと騎手としてのプロ意識がゆえだと思います。

　前走後は悲願のGIタイトル(高松宮記念、26日=中京芝1200メートル)奪取に向けて在厩で調整されてきたロータスランド。筋肉を緩ませないようにやってこれたことで、橋本助手が抱きしめた時の幅が本来の彼女らしく戻ってきたのでしょう。

　さらに言えば、今週末は厩舎の方が望みに望んでいる雨予報。橋本助手も「これだけのメンバーを相手にするなら、やはり雨はロータスの味方になる。GIでも本当に自信を持ってレースに行けそうです」と目を輝かせていました。レースまであと数日。大舞台へ向けてロータスランドとどんなことを考えて過ごされるのでしょうか。

「ロータスは耳に前髪が入るのが嫌みたいだったので、前走時に三つ編みにしてみたんですよ。そしたらいつも以上に気分良さそうにパドックを歩いてくれたから今回もやるつもり。レースに向けての仕上がりに関してはもう、やれることはやったので、あとはこの状態を維持して、前髪をどんなゴムで留めてあげるかを悩むだけですね」

　やっぱり女の子ですもんね！ 橋本助手とならロータスランドが心身ともに充実した時間を過ごしながらレースに向かえるのは確実。彼女を応援する皆さんも、あとはパドックでの髪形を楽しみにしながら、週末までを過ごしていただければと思います。

(栗東の桃源郷女子・赤城真理子)

東京スポーツ