4月2日の
大阪杯は
ジャックドールが鮮やかな逃げ切りでG1初制覇。手綱を執った
武豊騎手にとっては、史上最年長となる54歳19日でのG1勝利という
メモリアルレースになった。言うまでもなく日本競馬史に残る偉大なジョッキーだが、その人気は国内だけにとどまらない。
2013年の10月。まだ競馬のファンだった私は
凱旋門賞に出走する
オルフェーヴルを追って、ロンシャン競馬場にいた。前年の勝ちに等しい2着から1年、今年こそはという熱い期待を胸に初めて訪れた“聖地”は大きな興奮に包まれていた。その中心はもちろん1番人気に支持された栗毛のスーパーホースだったが、そこは
プライドの高い欧州人。心では日本トップホースの負けを望んでいたのだと思う。再び2着に敗れたレース直後は、群衆のあちこちから歓声と拍手が巻き起こっていた。
そんな日本人にとってアウェーの中でも、
キズナに騎乗する
武豊騎手だけは別格だった。1994年
スキーパラダイスの
ムーンランドロンシャン賞に始まり、
シーキングザパールや
アグネスワールドなど日本馬とのコンビも含め、それまで現地でG1を4勝。
凱旋門賞の騎乗も6度目だった。私に「ユ
タカタケ!」と声をかけてくる人もいたが、現地での認知度は非常に高い。何より驚いたのは昼休みだ。場内ビジョンに流れてきたのは、武騎手の過去のフランスでの騎乗をまとめた専用
ムービー。映画俳優の紹介のようなきらびやかな映像が終わると、実況アナウンサーの「
オカエリナサイ! ユタカサーン!」という声がスタンドに響いた。このときばかりはシワの深く刻まれた老白人たちも惜しみない拍手を送っており、胸が熱くなった。
あれから10年がたち、私は競馬記者になった。今や
オルフェーヴルや
キズナは種牡馬として、数々の実績を築くほどの長い時間が過ぎた。それでも、いまだに
武豊騎手は第一線で競馬界をリードしている。16年には
エイシンヒカリでG1のイスパーン賞を勝ち、フランスでの記録をまた1つ伸ばした。その存在感は世界でもますます大きくなっていることだろう。いつかまた、遙かロンシャンの地で偉大さに触れたいものだ。そして、その時こそ日本競馬の悲願を成し遂げて欲しい。
(角田 晨)
スポーツ報知