◆第90回
日本ダービー・G1(5月28日、東京競馬場・芝2400メートル)
第90回
日本ダービー・G1(28日、東京)は、競馬に携わるすべての関係者が憧れ、追い求める最高の舞台だ。史上8頭目の無敗2冠が懸かる
皐月賞馬
ソールオリエンス。61年ぶり、史上5人目のクラシック完全制覇が懸かる
手塚貴久調教師(58)が、3冠も視野に入る逸材の底知れない強さを語った。
強いのは分かっているが、どこまで強くなるのかは想像がつかない。無傷のデビュー3連勝で
皐月賞馬に輝いた
ソールオリエンスは、常に手塚調教師の予想を超えるパフォーマンスを見せてきた。前走の
皐月賞は4角17番手の大外という厳しい位置で直線を向いた。「何とか掲示板はあるかなと思った。正直、届かないと思った」と率直に振り返るが、みるみる加速する姿に胸の鼓動が速くなっていった。
調教師席で上位争いをするトレーナーたちから、次々と「来い来い!」などのゲキが飛び始めた。手塚師も高ぶる気持ちを抑えきれなくなった。「
シャザーンを抜いたあたりから、脚が違った。来ちゃうぞって。そこから声が出た」。全体の上がりを1秒7も上回る3ハロン35秒5をマークしての豪脚V。さらに
ウィニングランを終えて検量室前に引き揚げてきた際も、「息がそんなに乱れてなくて、すごいな、スタミナがあるな」と、あっけにとられるばかりだった。
トレーナーと
ソールオリエンスが初めて出合ったのは、1歳だったおととしの5月の終わり頃だった。あまり大柄ではなかったが、しっかりとした体のつくりに好感を抱いた。「バネがありそうな感じはありました。筋肉のメリハリが、馴致(じゅんち)を始める前からいいと思った」。2歳の秋にデビューを目指す段階から
フィエールマンや
シュネルマイスターといった厩舎が輩出したG1馬に近い雰囲気を感じ取り、いざ実戦に入ると新馬戦、
京成杯、
皐月賞と一戦ごとにパフォーマンスを上げて、能力の底を全く見せていない。
ソールオリエンスの特長について手塚師は、「速い脚が長く続くのはなかなかない。“シュッ”と一瞬切れる馬はいるけど、“シュー”っといける。うちで言うと
フィエールマンがそうだった」と
皐月賞の前に評していた。G1での鬼脚を目の当たりにした今、「この子は3戦とも最後の1ハロンが速い。それが瞬発力の長続きで、まだまだ限界までいっていない。能力的に奥があると、ずっと思っている」と、自信が確信に変わった様子だ。
そのたぐいまれなスピードの源は、若駒の第一印象にあったバネ、そして柔らかさにある。「まだトモ(後肢)などの緩さはあるが、トモのつなぎが他の馬より少し長いので、より体が沈んで、踏み込みが“グーン”となる。僕はジョッキーが『緩い』と言う方が走ると思っていますから」。天性の優れた素材は、まだ磨きをかけられている段階というから末恐ろしい。
手塚師にとっては
日本ダービーを勝てば、1962年の藤本冨良元調教師以来、史上5人目となるクラシック完全制覇がかかる。「状態は今回の方がアップすると思う。上がり目はある。クラブや牧場の方は、距離はいくらでももつと言っているし、私も大丈夫だと思う」と、手応えを隠さない。視線の先には秋の
菊花賞(10月22日、京都)の舞台を見据えており、「3冠のチャンスのある馬に出合えたのは、うれしいかぎり。ここ3戦の内容を見て、まんざらでもないと思う」と大きな夢を抱く。想像を超える序章から伝説が始まる。(坂本 達洋)
◆手塚 貴久(てづか・たかひさ)1964年9月20日、栃木県生まれ。58歳。慶大を卒業後、89年に
JRA競馬学校厩務員課程に入り、同年、美浦・相川勝敏厩舎で厩務員に。98年に調教師免許を取得。99年3月に美浦で開業し、
JRA通算628勝。
JRA重賞はG1・9勝を含む37勝。牡牝3冠レースは、13年
桜花賞を
アユサンで初制覇し、18年
菊花賞(
フィエールマン)、21年
オークス(
ユーバーレーベン)で勝ち、今年の
ソールオリエンスで
皐月賞初制覇。現在は日本調教師会会長を務める。
スポーツ報知