北海道浦河町にある軽種馬育成調教センター(BTC)が、調教場開場30周年記念事業として、BTC利用者振興会との共催で20日、
矢作芳人調教師による「これからの競走馬育成に求められるもの」というテーマで講演会を行った。
「調教師試験に13回落ちた矢作です」と、挨拶で笑いを取りつつ、「受かるまでに14回も要したことは、決してマイナスばかりだったとは思わないんですよ。その14年間、何を考えていたかということが大事で、その期間に短期的、中期的、長期的に物事を理詰めで考えていったことが、今につながっていると思います。これは、人も馬も一緒です。人であれば、短期的に今週あるいは今月どうすべきか、中期的には今年1年、長期的には何年か先の自分を展望した時にどう考えるのか…。馬であれば、今朝の調教(短期的)、2〜3か月のローテーション(中期的)、馬の一生を考えてあげられるか(長期的)といったことを、しっかり組み立てていく。これは、馬に携わっている人に限らず、誰にも基本だと思っていますし、馬にも考えてあげることが大切なことだと思います」と、プロセス思考の重要性を話していた。
その後、資料を基に出走回数が多い理由や、海外遠征など、若いホースマンが興味を持つ話題を続けた。参加者からの質疑にも答えた後、「どんな立場であれ、自分には自分の夢があると思います。これからの時代、競馬業界は人手不足の状況が続いていくと思います。今年、大井の
マンダリンヒーローがアメリカに遠征して結果を出しました。来年はダート競走体系が整備されますが、
地方競馬にも今まで以上に良い馬がたくさん入る時代になっていくと思います。先日、大井に行った時に『海外に行けば、中央も地方もないんだぞ』という話をしました。海外遠征では矢作厩舎でも人手が足りなくなります。その時、牧場の皆さんの助けが必要となります。実際、今春の海外遠征ではBTCを利用する牧場から1人来ていただきました。ですから、今からしっかりとした考えを持ち、矢作厩舎から海外遠征の声がかかった時に、すぐ行けるような準備をするホースマンになってほしいと思っています。目標を高く、限界を決めず、もっともっと背伸びしてホースマン人生を全うしてほしいと思います。そして一緒に、競馬をもっとメジャーにしていきましょう」と、若きホースマンにエールを送った。
矢作師は「夢」というワードを端々に口にした。世界最高賞金の
サウジカップを
パンサラッサが制し、ワールドベストレースホースランキングにはトップに立つ
イクイノックスがいる。日本の競馬は世界の中で最高峰にあり、牧場にいればそれを目の当たりにしている。夢を持ち、その夢に突き進む行動力。希望に満ちた参加者は、矢作師に背中を押されたはずだ。(競馬ライター)
スポーツ報知