昨夏の
アイビスSDを前にして、木原調教師が「健も乗せてあげたかったな」とつぶやいていたのをよく覚えています。
デビュー時から
田中健騎手が付きっきりで調教にまたがり、レースでもコンビを組んできたのが
シンシティ。類いまれなテンのダッシュ力を生かすために“芝直線1000メートルに挑戦しよう”と昨春の韋駄天Sへの参戦が決まった矢先に、
田中健騎手がケガをされたため、富田騎手へと乗り替わることに。次走の
アイビスSD時にはギリギリで復帰できそうなメドは立っていたのですが、富田騎手が初芝の韋駄天Sで3着と結果をしっかりと出しておられたので、そのまま続投となったのを受けての冒頭のトレーナーの発言でした。
以前、何人かの調教師さんが携帯電話の画面を見せ合ってニコニコされていたので「何を見ているんですか? 」とお聞きしたところ「木原先生は僕らがレースで勝った時、必ず“おめでとう”メールをくれるんだよ」と画面を見せてくださったことがありました。
木原調教師はそのくらい情に厚い方なので、厩舎の期待馬にお弟子さんである富田騎手を乗せて重賞に挑戦できることに少なからず喜びもあったと思うんです。それでもずっと
田中健騎手のことも気にされていました。「健がつくってきてくれた馬でもあるから」とおっしゃられて…。そう、今年の
アイビスSD(30日、新潟芝直1000メートル)は1年前の念願がかなうレースでもあるわけです。
前走の韋駄天S(11着)では両サイドから挟まれたこともあり結果が出ませんでした。担当の菅藤助手は「挟まれたことによる外傷もありましたからね」と振り返りつつ、「最近は気持ちの面(の影響)もあるのかなと感じているので今回はブリンカーを着けてみます。レースに行って効くか、効かないかは分からないけど“お守りにはなるよね”ってジョッキーと話しているんです」と馬具の工夫をすることを教えてくれました。
田中健騎手にも今回への意気込みをお聞きすると「やればやるだけ動くのは変わらないし、本当に乗りやすい子です。昔は体質が弱いところがあったんですが、そういう部分もだいぶ良くなりました。成長しましたよね。あとはレースに行っての気持ちひとつなので、何とか
キッカケをつかんであげたい。枠次第なレースではあるけど、柔軟に対応して力を出し切るレースができたらと思います」。その表情から
シンシティに懸ける強い思いが伝わってきました。
ちなみに
シンシティは坂路での1週前追い切りでラスト2ハロン11.8-11.9秒と連続で11秒台のラップを刻んでいます。いつも調教は動く馬ではありますが、このラップは今までになかったそうで、陣営が切望する“
キッカケ”をつかみつつあるのかも。
昨年2着に導いた富田騎手も見事でしたが、今年の
田中健騎手は…。
シンシティの走りから一瞬たりとも目が離せそうにありません。
(栗東のアイビス女子・赤城真理子)
東京スポーツ