女性ジョッキーが活躍するようになって久しいが、競走馬の装蹄業界はまだまだ男社会だ。それでもここ数年、装蹄教育センター(栃木県)には毎年数人ずつ女性生徒が入学し、装蹄師を目指している。卒業後の就職先は
JRA、
地方競馬から警視庁、宮内庁まで多岐にわたるが、女性は乗馬関係の装蹄の仕事に就くことが多い。競走馬の装蹄師は馬も人も勝負の世界で、師弟関係が厳しいことも少数派の大きな理由だろう。
石松麻鈴(まりん)さん(20)は「
キタサンブラックの表紙を見て、かっこいいなと思いました」と、雑誌を通して競走馬と出会ったが、競馬にのめり込むことはなかった。「動物系のYouTubeやTikTokを見るのが好きで、ある時、おすすめで乗馬の装蹄の動画が流れてきました」。ビビッときて、昨年4月に18歳で装蹄教育センターに入学。受講料、講習実費、寮費など150万円以上かかるが、高校1年生からアルバイトをして全額貯めた。「親も出してくれるとは言ったんですけどね」と笑うが、芯の強さや覚悟が垣間見えるエピソードだ。「知らないことばかりで、楽しかったです」と約一年の講習期間を笑顔で終えた。
在学中の昨年6月、求人コーナーを眺めていると、栗東の上村拡史装蹄所が目に留まった。「ダメもとで電話しました」と当時の心境を明かすが、これが師匠との運命の出会いになった。上村さんは栗東・福田晃寛装蹄所で経験を積み、昨年4月に独立して開業。栗東・
高柳大輔厩舎などを中心に打って回る。「女性から電話があってビックリしましたが、やる気があるなら男女は問いませんから」と内定を出し、翌春を心待ちにした。
3月20日から無事に上村装蹄所に弟子入り。石松さんは千葉県出身だが、栗東で一人暮らしをしながら装蹄漬けの生活を送っている。休みは月曜日だが、牧場に行くことも多い。「毎日、考える暇もありませんが、少しずつできることが増えて楽しいです」と目を輝かせる。先日、テレビ東京の取材も受けたそうで、9月3日17時15分からの「サラブレッドと見る夢」で放送される予定だ(関東地区のみ。YouTubeにもアップ予定)。
師匠が「日に日に成長しています。
JRA初の女性開業装蹄師になってほしい」とエールを送れば、弟子も「そのつもりです」と力を込める。現行の規定では、早ければ2038年に開業が可能。まだ始まったばかりだが、二人の挑戦を応援したい。(
中央競馬担当・玉木 宏征)
スポーツ報知