日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は美浦取材班の鈴木悠貴(32)が「暑さ対策」について
国枝栄師(68、写真)に取材。“アスリート
ファースト”を掲げる美浦の名伯楽が、より良い競馬開催へ3つの提言をした。
異常なまでの暑さが競走馬にも猛威を振るっている。8月は東京都心で史上初となる31日連続真夏日を記録。9月中旬を迎えても30度を超える日々が続いている。そうした影響からか、レース後に熱中症になる馬が続出。調教師は満足に調教できず、頭を抱えている。
暑熱対策として
JRAは、来年の夏季競馬でレースの休止時間を設けると発表している。具体的には1Rの発走時刻を繰り上げ(午前9時30分ごろ)。午前中に前半5Rまでを行い、正午前後から気温が最も上がる時間帯にレースを休止。午後3時ごろに再開し、6R以降の後半レースを行う予定となっている。また、パドック周回時間のさらなる短縮、装鞍所集合時刻の繰り下げなども検討されている。
だが、それだけでは足りないと話すのは“アスリート
ファースト”を掲げる国枝師だ。「海外ではレース前に獣医師が入念に馬の状態や環境を調べている。そしてある一定の数値を超えれば出走できなかったり、レースや開催自体が中止になることもある。日本でも獣医師がそういう提案をしてもいいと思うんだよね」と持論を展開する。
実際に昨年12月、
香港マイルに出走予定だった
サリオスは、レース前に左前肢ハ行と獣医師に判断され出走取り消し。また同7月、英国では猛暑注意報によって開催が中止された。「難しいことだとは思うけど、夏は思い切って開催しないくらいでもいいよね。売り上げも大事だけど、アスリート(競走馬)ありきの競馬。他のスポーツ選手と同様にオフがあってもいい」と熱弁した。
その上で、トレセンの環境改善も急務だと話す。「総電力の問題があるが、全馬房にエアコンをつけられるようにした方がいいよね」。今年の夏は、エアコン完備の新潟で滞在調整する馬が多数。国枝厩舎も
サリエラをノーザン
ファーム天栄から新潟に直接入厩させ、
新潟記念に備えた。「うちの厩舎はミストをつけて対策しているけど、それだけでは耐えられない暑さになっている。せめて、馬がしっかり休めるところがあったほうがいい」。
最後に“ペナルティー”の重要性も強調。「熱中症にさせてしまった調教師には罰則を与えてもいいんじゃないかな。海外ではそういうのもあるよね。それが過酷なローテーションを防ぐし、馬の安全につながる」。何十年にわたり、馬と接してきた名伯楽ゆえの3つの提言。すでに秋競馬は始まっているが、来夏以降の健全な開催のため、今から変えていく必要があるのかもしれない。
◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の32歳。千葉大学法経学部卒。今年1月から競馬担当。
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