「
凱旋門賞・仏G1」(10月1日、パリロンシャン)
この挑戦は無謀か、それとも英断か-。今年日本から唯一、欧州最高峰の頂に臨む
スルーセブンシーズ(牝5歳、美浦・尾関)。肩書としては『牝馬限定G3覇者』で、過去の挑戦者と比べても明らかに実績は見劣る。それでも、海を渡る決断を下したキャロット
ファームの秋田博章代表に直撃した。
◇ ◇
-今年の
凱旋門賞に
スルーセブンシーズを出走させる。まだG1実績のなかった5月の時点で、1次登録を行った理由は。
「実際に
スルーセブンシーズを扱っている現場のスタッフは、かなり前から『将来は大きなところを狙える馬になるはず』と高い評価をしていたんです。それでも3月に重賞(中山牝馬S)を勝った時点で、現場サイドから『
凱旋門賞の1次登録だけでもさせてほしい』と打診があった時は、さすがに驚きました。実際に挑戦するかどうかは、次走候補に挙がっていた
宝塚記念で“
イクイノックス相手に勝ち負けできたら”という条件をつけたのです。結果はご存じの通り、小差2着。目下の充実ぶりを如実に表す好走であり、現場からも強い要望が出ている。私自身も挑戦する価値、資格がある馬だなと感じました」
-5歳になって馬が本格化してきた。
「4歳までは精神的な弱さというか、ナイーブさがあったのですが、それが徐々に解消して安定してきました。今年の中山牝馬Sの走りも強烈でしたね。中山の3角あたりからスパートして、そのまま最後まで伸び続けるような脚。そういう脚を持つ馬なら、欧州の競馬にも対応できるのではないかと思わされました」
-馬体重も参戦を決断する要因になったと。
「2、3年前にどこかのコラムで、(海外競馬評論家の)合田さんが『490キロ以上の馬は
凱旋門賞を勝っていない』と書いていたのです。欧州の馬場は力のある馬の方がいいのではと、われわれも思っていたのですが、実はあの馬場は馬体重があればあるほど、馬場にズボッと脚が入ってしまう。
スルーセブンシーズは440キロ台。そういう点でも、欧州の馬場向きと感じています」
-血統も魅力的。
「
ステイゴールドの血はとにかく根性があります。どこに行っても闘争心を失わないのが、この血統の特徴。何より、同じ
ステイゴールドの系統である
ナカヤマフェスタが、“あと少しで勝てた”というレース(10年2着)をした事実が(遠征の)後押しになりましたね。馬体重が比較的軽くて根性がある馬。タフな馬場でも走れる血統背景も面白いんじゃないかと思っています」
-馬場の違いを克服するには。
「今から1カ月くらい前に、二ノ宮さん(敬宇元調教師)に連絡を取りました。あの方も『強い馬だから勝てるわけではない。あの馬場に合う走法にならないと厳しい』という話をされていました。人間で言えば、平地を走るランナーとハードル競技を走るランナー。そのくらいの違いに慣れていかないと駄目なんだと。
エルコンドルパサー(99年2着)も、日本にいた時と走法が変わったという話をしていました」
(続けて)
「数年前、ドイツの馬が悪い馬場で勝ったじゃないですか。ドイツ馬の特徴として、後肢の蹄が起きています。あのような馬場だと、その方が走りやすいのかもしれません。それで
スルーセブンシーズも無理のない程度に後肢の蹄を起こすようにしています。それでも馬場が悪くなり過ぎると難しいですよね。当日悪くなったとしても、稍重くらいまでが希望です」
-毎年、レース当日は馬場が悪化する。
「今年は世界的な異常気象で、フランスでも例年より7、8度くらい気温が高くなっています。前哨戦を見ても、時計はそこまで遅くない。こればかりは神のみぞ知ることになってしまいますが、今年はいい馬場で走れることを願っています」
-秋田代表は
シリウスシンボリが挑戦した86年
凱旋門賞を現地で見ている。
「馬群が4角を回る時、
シリウスシンボリはまだ3角にいました。日本のダービー馬が、大差も大差の惨敗ですよ。日本と世界は相当な差があるなと、その時は肩を落としましたけどね。いつかこの舞台で勝てる馬をつくることを夢として持っていました」
-最後に、
凱旋門賞後のプランなどは。
「最良の結果を残すためにも
凱旋門賞に全力投球で、その後についてはレース後の馬の状態を見た上で判断していければと思います。まずは
凱旋門賞を勝って、凱旋帰国することができるよう、皆さまには温かいご声援をお送りいただければ幸いです」
◆秋田博章(あきた・ひろあき)1948年2月25日生まれ、北海道出身。80年に旧・社台
ファームに獣医師として入社し、93年にノーザン
ファーム場長に就任。2013年に同顧問へ。15年から(株)キャロットクラブの取締役になり、18年に(有)キャロット
ファームの社長に就任した。
◇
凱旋門賞 世界最高峰のレースの一つとして、世界中のホースマンが憧れる大舞台。毎年10月の第1日曜日に行われる。長い歴史の中で欧州調教馬以外の優勝馬はおらず、調教国別勝利数はフランスが68勝で断トツ。日本馬は1969年の
スピードシンボリ(着外)を皮切りに、これまで延べ33頭が参戦して〈0・4・0・29〉。99年
エルコンドルパサー、10年
ナカヤマフェスタ、12&13年
オルフェーヴルの2着が最高で勝利はない。
提供:デイリースポーツ