世界一の馬が、すがすがしくターフを去る。30日、G1・6連勝中の
イクイノックス(牡4=木村、父
キタサンブラック)の現役引退が発表された。年末の
有馬記念には向かわず、今後は社台スタリオン
ステーションで種牡馬入りすることとなった。
JRAの歴代獲得賞金1位となった令和の天才馬が、新たな頂点へと歩み始める。
世界最強馬は引き際まで潔かった。8万人の大観衆を感動の渦に巻き込んだ
ジャパンCからわずか4日。
イクイノックスの電撃引退が発表された。シルクレーシングの米本昌史代表は、感無量の面持ちで切り出した。
「おととい(11月28日)、ノーザン
ファーム天栄に放牧に出て健康状態をチェックした結果、
天皇賞・秋、中3週での
ジャパンCを走っただけの疲れが見えました。
有馬記念を鑑みて、今回も中3週で万全の態勢での出走は難しいとの判断で出走を見送らせていただきます。社台スタリオン
ステーションから素晴らしいオ
ファーをいただきました。この上ないオ
ファーに応えることで種牡馬入りするのがベストだと判断しました」
総獲得賞金22億1544万6100円は女王
アーモンドアイを超え歴代1位。G1出走機会6連勝は
テイエムオペラオー、
ロードカナロアに並ぶタイ記録。連覇が懸かる
有馬記念でも雄姿を見たい…。一方で、このまま無事でスタッドインしてほしい。イクイ2世の誕生を望む大きな声もまた多かった。
全10戦で手綱を取ったルメールは自身のSNSを早速更新。
ジャパンCの口取りで
イクイノックスと見つめ合う写真とともに「あなたは
トップパートナーに上り詰めました。引退は当然のことです。楽しんで!そして、ありがとう」と戦友を思いやった。
ジャパンCのレース直後、木村師が「調教を見ているだけで涙が出る」と声を震わせたサラブレッドの究極の完成形。3歳春のクラシック(
皐月賞2着、ダービー2着)こそ涙をのんだが、G1初制覇を飾った3歳秋の天皇賞からは手がつけられないほど強くなった。今年3月のドバイシーマCは圧巻逃げ切りで世界最高レーティングの129
ポンド。令和初の天覧競馬となった2走前の
天皇賞・秋は衝撃の「1分55秒2」の大レコード。ラストレースとなった
ジャパンCを制し、日本調教馬歴代2位のレーティング133
ポンド(暫定。1位は
エルコンドルパサー)となった。最強のままターフを去るイクイにはG1・7勝の偉大な父
キタサンブラックの血の継承という大きな仕事がある。父も在籍する社台スタリオン
ステーションで来春から種牡馬生活がスタート。父もこれからはラ
イバルだ。
引退式は「やってあげたいな…という気持ちがあります」(同代表)と
JRAと協議している。順調なら、初年度産駒は2年後の25年に誕生予定。27年夏以降、
イクイノックス2世が全国の競馬場でデビューする。逃げて良し、追い込んでOK。多彩な戦法でもファンを魅了した“最強の遺伝子”はきっと引き継がれていく。
◆
イクイノックス 父
キタサンブラック 母シャトーブランシュ(母の
父キングヘイロー)19年3月23日生まれ 牡4歳 美浦・木村厩舎所属 馬主・シルクレーシング 生産者・北海道安平町のノーザン
ファーム 戦績10戦8勝(海外1戦1勝、重賞7勝、うちG1・6勝) 総獲得賞金22億1544万6100円。馬名の由来は昼と夜の長さがほぼ等しくなる時。
《社台SS・徳武場長「期待裏切らないように種付けを」》種牡馬入りする社台スタリオン
ステーションの徳武英介場長は「いつかここに来てほしいと思っていた馬。みんなの期待を裏切らないように種付けしていきたい」とコメント。「父の
キタサンブラックはとんでもないスピードで走るマラソンランナーで、母系には驚異的な身体能力を持つ馬ばかり。両方の良さが合わさって、感動を呼ぶような爆発力があった」と
イクイノックスの現役時代を振り返り、「サンデー系特有のしなやかでバネのある走り。子供にもそのような部分が受け継がれるといいですね」と産駒の活躍を楽しみにした。
▼木村師 この秋、天皇賞と
ジャパンCは素晴らしいレースをしてくれました。これ以上、望むことはありません。牧場のスタッフならびに木村厩舎のスタッフ、
クリストフ・ルメール騎手、獣医師さん、装蹄師さん、全ての牧場関係者が尽力した成果だと思います。
イクイノックスには素晴らしい景色を見させてもらいました。そして彼は世界中の人々に感動を与えてくれました。(種牡馬として)無事に次の仕事へと向かってもらいたいと思います。初入厩から2年半、彼と過ごした日々は世界一幸せでした。こうして無事に送り出すことができ、その責任を果たせたことを誇りに思います。全てを理解している、まさに
パーフェクトな馬でした。
イクイノックス、ありがとう。本当にありがとう!
スポニチ