あの涙の意味を考えていた。ルメールが
イクイノックスの
ジャパンC制覇後に見せた男泣き。3冠牝馬
リバティアイランドとの決戦を制し、相棒の強さに感動したためだと思っていたが、それだけではなかった。現役引退の一報に触れ、そう感じずにはいられない。
私の記憶に残る彼の涙は、
アーモンドアイで制した20年
天皇賞・秋までさかのぼる。当時のJRA史上最多記録である芝G1・8勝目が懸かった大一番だった。
テイエムオペラオー、
ディープインパクト、
ウオッカなど歴代の名馬でも到達できなかった頂。後日、男泣きの理由を聞くと、「絶対にG1・8勝したかったのでいつもよりプレッシャーがありました。けど、彼女はすごく強かった。素晴らしかった」と笑顔で教えてくれた。
春に
安田記念で
グランアレグリアの2着に敗れ、一度は阻まれた“G1・8勝の壁”。その高さを実感し、越えてほしいと願う周囲の大きな期待を感じたからこそ、偉業達成後に思わず感情があふれ出したのだ。
今回の涙にも似た質のモノを感じた。勝てば総獲得賞金で史上最多を更新。既に歴史に残る名馬ではあったが、さらに名声が高まるのは間違いなかった。引退間近なのも分かっていたのだろう。そんな記録的な話以上に、大好きな相棒を最強馬のまま次のステージに送り出したい使命感が強かったはず。今回も、当時話していた「いつもよりプレッシャー」を感じた一戦だったのは間違いなかった。
引退発表後、自身のX(旧ツイッター)で“一人二役”のメッセージをつづっていたのが印象的だった。
イクイノックス「皆さん、お大事に。僕はやるべきことをやったよ」
ルメール「君は最高のパートナーだったよ。引退するのも当然だよね。楽しんで!ありがとう」
しんみりするような別れの言葉をあえて添えず、大役を見事に果たした相棒を称え、ユーモアたっぷりにエールを送っていたのが彼らしかった。
21年夏に
イクイノックスが6馬身差で新馬戦Vを飾った翌週。
札幌2歳Sを
ジオグリフで制した直後、現地で祝福した際に彼から返ってきた言葉が忘れられない。
「ありがとう。
ジオグリフもすごくいい馬だし、先週の
イクイノックスもものすごく強かったね。楽しみ。絶対
トップレベルにいけます」
“予言”は、時を経て私の想像をはるかに超える形で的中した。希代の名牝
アーモンドアイが現役を引退した翌年に現れた歴史的名馬。
イクイノックスの現役引退はさみしいが、ルメールならまた新たな才能と出会える-。そう確信しているのは、決して私だけではないはずだ。(デイリースポーツ・大西修平)
提供:デイリースポーツ