中央競馬の一年の総決算である
有馬記念は、数あるレースの中でもとりわけたくさんのファンの思い出が凝縮した一戦だろう。2007年の勝者は
マツリダゴッホ。重賞6勝をすべて中山で挙げた“中山の鬼”は、9番人気の低評価を覆す波乱を演じて「強い牝馬」の黎明期にくさびを打った。今年の
グランプリは
クリスマスイブの24日、中山競馬場で開催。20歳となった“鬼”は今、北の大地で穏やかな日々を送る。
あの激走から16年。あっと言わせた
マツリダゴッホは今、育成、競走馬時代に慣れ親しんだ北海道新ひだか町のノルマンディー
ファームで、のんびりと余生を送っている。「夏は
札幌記念(07〜09年)を使っていたので、ここへ必ず帰ってきたんですよ」。同
ファーム場長の富島一喜さんは現役時代を振り返り、懐かしそうに目を細める。
今年で20歳。人間に例えるなら70歳くらいだろうか。「さすがに年をとったなと感じます。顔、背中、歯…。そんな所に年齢は出ます。でも、元気は元気です。毎年、種牡馬の展示会を見に行っていましたが、その時もうるさかった。変わらないですよ」
日本競馬界に偉大な功績を残した種牡馬、
サンデーサイレンス産駒の最終世代だった。当然、関係者の期待は小さくなかったが、育成時代を知る富島さんは「最初は頼りなくて、大丈夫かなと思っていた」という。「走る時の
バランスがあまりよくなかったんです。POG(ペーパーオーナーゲーム)の
サンデーサイレンス産駒特集で、社台グループの同期と写真を見比べると見劣る感じがして…。半信半疑でした」
ところが2005年8月、札幌の新馬戦を7馬身差で圧勝。富島さんの“親心”は取り越し苦労に終わった。「競馬場で調教を進めるなかで、馬が変わっていったようです」。06年、3歳の年末から軌道に乗ると、翌07年に2つのG2タイトルを獲得。勢いに乗って同年の
有馬記念で大仕事を成し遂げる。「うっそー!?でした。馬主さんも、牧場関係者も誰も現場に行っていませんでしたから。いい思い出ですね」
3年連続で参戦した09年暮れの
グランプリを最後に引退し、2010年に種牡馬入り。その“第二の馬生”にも、今春でピリオドを打った。消長の激しい世界で14年間、奮闘してきた名馬を、富島さんは「本当によく頑張った。そう思いますよ」とねぎらう。ここまで5頭の重賞ウィナーを送り出し、重賞は計7勝。産駒の出走回数は減っているが、今年10月1日には12年生まれの産駒
マイネルプロンプトが阪神で2勝クラスを勝ち上がった。
JRA平地競走の最高齢勝利記録を更新する、11歳の白星だった。12番人気の大穴。9番人気で
グランプリ覇者となった
マツリダゴッホの血は、確かに受け継がれていた。
「数は少なくなりましたが、まだ2歳、1歳とノルマンディークラブの馬もいますし、まだまだ勝ち星は増えると期待しています」。北海道でも雪の少ない新ひだか町だが、間もなく厳しい冬が到来する。最後に富島さんはこう締めくくった。「これがG1を勝つ馬の背中なのか。ほかにG1で活躍した馬も調教させてもらっていますが、僕の中ではゴッホが一番です。今も、あの背中を追い求めています」
〇‥今はノルマンディー
ファームに滞在している
マツリダゴッホだが、ついの住み家は岡田スタッドになりそうだ。同スタッドの岡田牧雄代表は「種牡馬引退後に去勢して騙馬になりました。ゆくゆくは乗馬にしたいと考えており、タイミングを見てノルマンディー
ファームから移動して、余生を過ごす予定です」とコメントしている。20年の歳月を経て、生まれ故郷に帰ることになる。
〇‥
マツリダゴッホ産駒は初年度産駒の
ウインマーレライが2014年の
ラジオNIKKEI賞で重賞初勝利。
クールホタルビ(14年
ファンタジーS)、
ロードクエスト(15年
新潟2歳S、16年
京成杯AH、18年
スワンS)、
マイネルハニー(16年
チャレンジC)、
リンゴアメ(20年
函館2歳S)と、5頭で計7つのタイトルを獲得した。また重賞こそ未勝利だが、14年
朝日杯FS2着の
アルマワイオリも同産駒。
マツリダゴッホ自身は中距離で活躍したが、子供たちは短距離で強さを発揮した。ノルマンディー
ファームの富島場長によると「一瞬のスピードを生かすタイプが多い」という。
◆
マツリダゴッホ 父サンデーサイレンス、
母ペイパーレイン(父ベルボライド)。2003年3月15日、北海道静内町の岡田スタッドで生まれる。美浦・
国枝栄厩舎の所属馬として05年8月、札幌の新馬戦で1着デビュー。07年のアメリカJCCで重賞初勝利を挙げ、
オールカマー(07、08、09年)3連覇、
日経賞(08年)と、07年
有馬記念を含む重賞6勝をすべて中山で挙げた。通算27戦10勝で総獲得賞金は6億5373万400円(
JRA・HPより)。馬主は高橋文枝氏。
スポーツ報知