04年の
有馬記念は記録ずくめだった。
ゼンノロブロイが逃げる
タップダンスシチーを楽にかわして快勝。勝ち時計2分29秒5は今も残るレコード。
ゼンノロブロイは同年
天皇賞・秋、
ジャパンC、
有馬記念の「秋G13連勝」を達成し、
藤沢和雄師は02、03年の
シンボリクリスエスに続く、
有馬記念3連勝を決めた。
しかし、藤沢和厩舎担当記者にとって、そんな数々の記録を全て吹き飛ばす珍事が、レース後の口取りで起こった。藤沢和師が口取りの列に笑顔で加わったのだ。
師はどんなビッグレースを勝っても、口取りの時は馬から遠く離れ、管理馬の様子を眺めるだけだった。「口取りで褒められるべきは、お馬さん。だから自分は参加しない。参加する時は自分が納得いく仕事ができた時じゃないかな」と指揮官は話してきた。
「初めて口取りに加わりましたね」と聞いた。師は照れくさそうに「今まで一番うれしかったからね」と理由を明かした。
記者の脳裏に浮かんだのは、ちょうど1年前の
有馬記念のレース後だった。日がとっぷりと暮れた頃に優勝馬
シンボリクリスエスの馬房を訪ねると、藤沢和師がいた。正確に言えば、3着馬
ゼンノロブロイの馬房の前にいて、ずっとロブロイに話しかけていた。
「最後の最後に
リンカーンにかわされてたじゃないか。ちょっとショックだぞ。こんなレースじゃ、(この
有馬記念をもって)引退するクリスエスを戻さなきゃならないじゃないか。鍛え直しだぞ、おい、聞いているのか」。
全ての光景が一本の線となった。1年前の
有馬記念3着から、師とロブロイは1年後のこの快勝に向け、鍛え上げてきたのだ。見事に結果を出し、師はしっかりと仕事ができたのだと納得し、口取りに加わったのだった。口取りの列の隅で笑顔を見せる藤沢和師。あの風景は一生忘れない。
スポニチ