セカンドキャリアが注目される引退競走馬。支援の輪も広がり、馬生の選択肢は少しずつ増えている。JRAの登録抹消馬はその大半が引退するわけではなく、
地方競馬に移籍。なかにはネットの競走馬
オークションで落札され、再スタートを切る馬もいる。
『サタデー
オークション』(https://www.sat-auction.jp)をご存じだろうか。昨年12月23日(土)に開催した第1回は6頭、今年1月6日の第2回は10頭と、
中央競馬の登録抹消馬、
地方競馬の在籍馬、計16頭が上場されて全馬が落札された。
代表を務めるのは田中敬太氏。長く、日本馬の海外遠征のコーディネーターとして腕を振るった、第一人者だ。
オークション会社を立ち上げたきっかけは何なのか。田中氏は「日本馬が海外のレースで好成績を挙げることも珍しくなくなりました。海外で力を発揮することに関しては、日本競馬は世界と肩を並べたと言えるところまできた。じゃあ、日本競馬を底上げする上で、自分が力になれることは何か?以前から、トップではない馬の流通は、世界に比べて遅れている、という感覚がありました」と説明する。
馬の流通が文化として定着しているのがイギリスだ。最も有名なのがタタソールズ社。7月と10月の年2回、現役馬だけが上場されるセリが行われている。「ヨーロッパの他地域、中東、さまざまな国から馬主、調教師が買いに訪れ、国をまたいで馬が移籍し、現役を続ける例が多くある」。他国で第2の競馬人生を歩む馬の流通経路が確立されているのだ。
田中氏はこう続ける。「そのタタソールズのセリで、ドバイの厩舎長を務める私の知り合いが、3万5千ギニー(約600万円)でテュラース(牝7歳)という馬を購入。
オーストラリアに渡って、フレ
ミントン競馬場のG2(賞金約1500万円)を勝ちましたよ」。お手頃価格の馬が、馬場、環境、レベルの違いで大きく化けることは珍しくない。
日本で引退したのち、
オーストラリアに行くケースがあるが、今のところは希少。確立はされていない。「トップクラスではない馬でも、他の国でステークスを勝てると分かれば、日本馬の強さが世界で一層評価されます。JRAの登録抹消馬を海外から買いに来るマーケットが生まれてもいいのではと思います。海外のバイヤーにも買ってもらいたい。幸い、日本馬を海外に送り出すノウハウを持っているので、“オーナーが落札してくれたら、あなたの国まで送り届けますよ”という」。田中氏は海外をマーケットにした
ネットオークションの将来像を力説する。
日本における現役競走馬のインターネット取引は楽天の『サラブレッド
オークション』が先駆けで、こちらは485回を数える。『サタデー
オークション』は国内2社目だ。第2回を終えた印象を田中氏はこう語る。「購入者は北海道の方から九州まで。1回目よりも2回目の方が活発になりました。サイトが使いやすいという声が多く、売り手からは“思っていたよりも高く評価してもらった”という喜びの声もあります。システム構築に1年以上の準備期間をかけて、サイトはこだわって作りました」。記者も細部まで行き届いたサイトだと感じた。
馬は、年齢、中央、地方を問わない。信頼性をより重要視したという。「提供する情報を充実させました。馬主や現場サイドとコミュニケーションを密に取って発信すること。そして動画の提供。可能な限り、歩き動画を提供しています」。ある馬の〈レース内容〉にはレース後の骨折箇所が明かされ、〈近況〉に骨片除去手術の終了、抜糸などを明記。〈関係者コメント〉も充実していて、〈その他〉として出品に至った経緯なども記されている。動画では歩様をチェックでき、写真から顔、前方から、後方から、脚元、蹄などを確認できる。
第4、5、6回は被災地支援
オークションとしての開催が決定。「売り上げの1%を石川県に義援金として寄付します」とのことだ。
JRA登録抹消から地方へ、または地方から地方へ。競走馬の
ネットオークションが、その潮流を支える。これが定着し、海外のバイヤーが参加することになれば、登録抹消された日本馬が海の向こうへ渡り、活躍する姿が見られるかもしれない。今後、どう展開していくのか、注視したい。(デイリースポーツ・井上達也)
提供:デイリースポーツ