開幕週を迎える東京競馬場では、日曜のメインに
根岸ステークス(4歳上・GIII・ダ1400m)が行われる。
JRAのダート重賞では3番目に古い歴史を持つ一戦で、数々の砂巧者が勝利を挙げてきたが、いまでも語り草となっているのは2000年の同レース。覇者
ブロードアピールが魅せた鬼脚は多くの人々をひきつけ、地上波のバラエティ番組でも取り上げられるなど、GIII競走としては異例ともいえる扱いを受けている。
ブロードアピールは
父Broad Brush、
母Valid Allure、母の
父Valid Appealという血統。98年9月に札幌競馬場で行われた4歳上500万下でデビューし経験馬相手にいきなり3着に入ると、翌週には早くも初勝利を挙げる。同年11月から4連勝するなど遅れたデビューを取り返すように実績を積み、10度目の重賞挑戦となった00年の
シルクロードSで重賞初制覇を果たした。
本稿の主題、00年の
根岸S。意外にもダート重賞は初挑戦だった。とはいえ、芝での実績が豊富だったことや、同年5月にダートの
栗東Sでレコード勝ちしていたこともあり、2.8倍のやや抜けた1番人気に支持される。宇都宮の快速娘
ベラミロードや、砂の安定株
エイシンサンルイス、
ワシントンカラーが揃った一戦。個性的なメンバーの中で、
ブロードアピールは衝撃的なレースを披露した。
ゲートが開くと
ベラミロードや
エイシンサンルイスがハナをうかがうが、
ブロードアピールは最後方15番手に待機。
武幸四郎騎手は追い込みにかける競馬を選択した。ペースは前半600mが34.1。どスローではないが、オープンでは決して速いペースではなかった。現にレースを引っ張った
エイシンサンルイス、
ベラミロードがそれぞれ2着、4着に粘り込んでいる。
4コーナー過ぎで10馬身近くあった差を一気に詰めにかかるが、レースを見ていた大半のファンが「あの位置では届くはずがない」と思っていたことだろう。だが、また1頭、また1頭とかわしていく。残り300m。実況アナウンサーやファンが“異変”に気づいた。なんと、
ブロードアピールがものすごい勢いで、すぐそこまでせまっているではないか。
残り200mで5馬身差をひっくり返すには十分な距離、スピードだった。終わってみれば1馬身差少々の快勝。ファンや関係者、このレースを見たものすべてが心揺さぶられるような瞬間だった。
根岸Sといえば
ブロードアピール、ダートの追い込み馬といえば
ブロードアピールといわれるほど、彼女の鬼脚はファンに強烈なインパクトを残した。