先月、中山競馬場で実況デビューを果たしたラジオNIKKEI藤原菜々花アナウンサー。長い歴史を持つ同局において、女性が競馬実況をするのは史上初のことだった。現在は午前中のレースで経験を積みながら、目標に向かって歩みを進めている。彼女が描いている大きな夢とは。上長の中野雷太アナウンサーとともに、話を伺った。
中山でのデビュー戦を終えて、3週間後には東京での初実況。しかし、浮かない表情を見せた。「慣れてきたかなと思ったのですが、直線でどう描写したら良いのか、迷子になってしまって……」。開催替わりの難しさを知った。中野アナも「去年秋の東京開催の練習では普通にできていたのですが、まだキャリアが浅いので、コース形態が違う中山での感覚に引っ張られている感じでしたね」と振り返る。
さらには雨の中での実況も経験。練習では何度もこなしてきたが、いざ本番となると不安がよぎった。「勝負服に泥がついて見えにくくなりますし、服色も全然違って見える。練習のとき、霧で全然見えないことがあって、雨予報が出たときから『今週末、霧が出たらどうしよう』って思っていました。でも、当日は雨も小降りで、ラッキーでした」。中野アナは「散々、練習でやってきたじゃない」と笑顔を浮かべた一方で、「本番で初めてになると、そういうものなのかな」とフォローした。デビューしてまだ一カ月。競馬実況は1レース、1レースで日々、勉強のようだ。
とはいえ、仕事は実況だけにとどまらない。平日はニュース番組で原稿を読み、自身が
パーソナリティを務める番組を収録。週末には競馬番組で実況、進行を担当するなど、藤原アナの仕事は多岐に渡る。トレセンにも2カ月に1回のペースで訪問。騎手や調教師への取材もこなす。
最初は競馬をほぼ知らない状態で入社し、競馬場のビギナーズセミナーに参加するところから始まった「競馬」との関わり。それがいまは、マルチに活躍を見せている。中野アナも「立派なものですよね。ひとりでトレセンに行って、ちゃんと取材できるまでになったのですから」と成長に改めて目を細めた。
様々な活躍の中で、印象的なエピソードがあるという。一昨年から務めているジョッキーベイビーズでの一コマだ。中野アナが話す。
「終わったあと、子ども達にインタビューすると、場が和むんですよ。中には悔しくて泣き出しちゃう子もいたり、尻込みしちゃう子もいたりするのですが、彼女がやるとすごくいいムードになるんです。これは彼女の天性のものだと思うし、大事にしてほしいですね」。藤原アナが持つ柔らかい雰囲気は、彼女にしか出せない“武器”だ。それは自身の夢にも繋がっている。
「牝馬のGIを実況したいです」
競馬実況を続けるうえで、当面の目標は「ラジオ実況から、場内実況への
ステップアップ」。しかし、その先には大きな舞台を見据えていた。でもなぜ、多くのアナウンサーが実況したいという、ダービーや
有馬記念では無いのだろうか。そこには先ほどの“武器”が関係している。
「私に男性のような迫力は絶対出せないと思っていて。でも、走っているときの爽快感を出すことや、華やかさを伝えることはできるんじゃないかなと」
競馬に触れ、競馬実況に触れ、自分の長所を考えた中で生まれた夢だった。「自分の強みを生かせるんじゃないかなという想いもあって、女の子たちのGIを担当できたらなって思います」。
藤原アナの成長していく姿を見て、中野アナも「女性実況者のパイオニアのような存在になって欲しい」と期待を込める。まずは場内実況を目指し、その先は先に見据えているのは、ターフをかける乙女たちの決戦を実況する姿だ。
◆中野 雷太(なかの らいた)
97年に日本短波放送(現・日経ラジオ社)へ入社。これまで数々のGI競走で実況を担当しているほか、
JRA賞の司会を務めるなど、活躍は多岐に渡る。学生時代から競馬に興味を持ち、想い出の馬は
ヒシアマゾン。現在の主な担当番組は『
中央競馬実況中継』『うまきんIII』『日経電子版NEWS』など。
◆藤原 菜々花(ふじわら ななか)
20年に日経ラジオ社へ入社。趣味はフィギュアスケート観戦で、自身が企画した番組『こだわり
セットリスト・特別編〜羽生結弦選手特集』は世界中で話題となった。今年1月8日に競馬実況デビュー。日曜18:20〜放送中のトーク番組『ななかもしか発見伝!』では、自身が
パーソナリティを務めている。