日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週はサウジアラビア出張中の東京本社・田井秀一(31)が担当する。サウジCで世界一に挑む
レモンポップ(牡6=田中博)を支える癒やしの時間を取材した。
昨年、史上4頭目の
JRAダートG1完全制覇を成し遂げた
レモンポップ。その強じんな筋肉美は見る者を魅了する。しかし、搭載するエンジンが強力であればあるほど肢体への負担は増大するはず。砂王はいかにして蓄積する疲労を回復させているのだろうか。
調教を終え、馬房に戻った
レモンポップを迎えるのは厩舎が誇る多種多様な物理療法機器。見覚えがある家庭用のマッサージガンから、コリを治療する高周波、低周波、近赤外線(LED)、キセノン光、磁気刺激の治療器までよりどりみどり。担当の田端助手は「調教師が設備投資を惜しまずいろいろと導入してくれるので馬体のケアにこだわることができています。ウチの厩舎は“物療(物理療法)”のデパートですよ」と笑う。「こういうのは結構好き」という同助手によるマッサージの施術は1時間以上に及ぶ日もある。
まずは自ら馬体を触診し、ダメージを負った部位を探る。獣医師の診断を参考にし、乗り手との
フィードバックを経て施術内容を工夫する。昨年は距離延長を克服するためにトレーニング内容や走法が変化する中で肢体への負荷も変容し、物療のアプローチを試行錯誤。「正解は分からないですけど、効果が大きいものを探ってベターを追求する感じでした。乗り手から“以前より良くなっている”と言われるとうれしいですし、やりがいを感じる瞬間です」。背中、腰、股関節など疲れがたまりやすい箇所をほぐせば、「気持ち良さそうに」トロけていく。重戦車と物々しく称されるイメージとのギャップ萌えだ。
JRAは今年4月から馬の競走能力を一時的に高め、または減ずる「禁止薬物」を114から351に、競走能力への影響はないものの馬の福祉および事故防止の観点から使用に制限がある「規制薬物」を85から230に増やす。競走馬の心身を癒やす、手間をかけたぬくもりあるくつろぎの時間の重要性はより増していくだろう。脚部不安で1年以上の休養を経験し、「意外に思われるかもしれませんが、がっつくほどは食べない」と繊細さもある
レモンポップ。その快進撃は縁の下の入念なケアに支えられている。
◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の31歳。阪大法学部卒。道営で調教厩務員を務めた経験を持つ。BSイレブン競馬中継解説。netkeiba「好調馬体チョイス」連載中。
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