「サウジC・G1」(2月24日、キングアブドゥルアジーズ)
デイリースポーツ競馬記者が今届けたい
サイドストーリーを発信するコラム「ケイバのゲンバ」がスタート。初回はサウジCを現地取材した島田敬将記者が担当する。開始当初は世界最高賞金レースという一面に注目が集まっていたが、年々出走馬のレベルが上がり、世界の競馬界においてその存在感は増すばかりだ。取材で感じたサウジCの現状とこれからを関係者の証言とともに検証する。
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セニョールバスカドールの優勝で幕を閉じた今年のサウジC。特筆すべきはメンバーレベルの高さだった。
ペガサスワールドCの勝ち馬(
ナショナルトレジャー)に、昨年の世界ランキングでダート部門トップタイの評価を受けた
ホワイトアバリオが、BCクラシックの勝ち馬として初めて参戦。日本からも最上位のメンバーが集結し、実質的に日本の頂上決戦の意味も持ち合わせていた。
今回の日本馬はいずれも
フェブラリーSの出走を見送っている。関係者の一人は「ダートG1が芝スタートなんてありえない」と競走条件が合わないことを理由に挙げていたが、もう一つは賞金面だ。今年のサウジCの1着賞金は日本円で約15億円、2着5億2500万円と続き、5着でも
フェブラリーSを上回る1億5000万円。遠征リスクを上回る
インセンティブがある。
なぜサウジはここまで大金をかけるのか。世界的なクリーンエネルギーなどの台頭もありサウジは現在、値動きが不安定な石油依存の財政構造からの脱却を図っている。その柱となるのがムハンマド・ビン・
サルマン王子が旗手となって推し進めている「サウジビジョン2030」。ざっくり言えば、石油だけに頼らない次世代産業の育成がテーマで、その範囲は文化や観光産業といった国外向けの
ソフトパワーにも及ぶ。サウジC諸競走デーの主要スポンサー「ブティックグループ」はまさにムハンマド王子が公的投資機関と共同で立ち上げた企業。国策ツールの一つとして競馬を組み込んでいるのなら、熱が入るのも当然だろう。
同じ中東でもドバイは対照的だ。競馬新興国のイメージが強いサウジに対して、早くから積極的に日本馬が遠征してきたのがこの国だが、最近の傾向を矢作師はこう説明する。「今のドバイ(ワールドC)は登録料だけで約10万ドル、日本円で1500万を超える。こちら(サウジ)は登録料が無料。ほぼ
ノーリスクで行けるのは、我々からするとありがたい。今は競馬にかけている資金が絶対的に違う。言い方が悪いけど、ドバイはだんだんセコくなっている」。他にも1頭につき厩舎関係者2人が渡航旅費無料のサウジに対しドバイは1人。ドバイは細かいところまで財布のひもが固くなってきている。
賞金面に加えて、競馬関係者への手厚いサポート。今回が5回目となったサウジCの存在感は世界の競馬界において着実に高まっている。「サウジCはすごく難しいレースになってきた。今回はかなりレベルが高かった。また
トライしたい」。レース後に
ルメール騎手が語ったように、日米のトップホースが集結した今大会を見ても既にその傾向は現れている。慎重な見方をすれば、今後のサウジCの運営に関してはムハンマド王子の“鶴の一声”でまた違った形になる可能性も捨てきれない。ただ、このままいけば、名実ともに世界のダートの頂点を決める祭典になるだろう。
提供:デイリースポーツ