01年の
阪神大賞典を制して検量室前へと引き揚げる
渡辺薫彦騎手(現調教師)の目に涙が浮かんでいるように見えた。「よかったな!」。騎手仲間が次々と肩を叩く。
すでに99年
菊花賞を制していた
ナリタトップロードにとって、G2制覇は珍しくない。だが、この1勝に大きな意味があったことを周囲はよく知っていた。
話は前年の
有馬記念にさかのぼる。その99年
菊花賞を最後に、
ナリタトップロードは7戦、白星に見放されていた。陣営は渡辺騎手を降ろし、
的場均騎手(現調教師)を鞍上に据える決断をした。
的場騎手は精力的に動いた。1週前、当該週と2度にわたって栗東に赴き、
ナリタトップロードの動きを確認した。沖厩舎で調教師、渡辺騎手とミーティング。そしてレースのラ
イバルである
テイエムオペラオーの
和田竜二騎手とも会話をかわした。
「
ナリタトップロードの癖をしっかりとつかむことができた。収穫は大きかった」。的場騎手は語った。そして、もっと大きな成果があったと言う。「和田騎手と話せたことが大きい。彼の表情、性格、しぐさを知っておくことが大事。そうすればレース中、
テイエムオペラオーの動きをいち早く察知できるかもしれない」
結果的には
ナリタトップロードは
有馬記念で9着に敗れ、続く
京都記念も的場騎手騎乗で3着。勝利にはつながらなかった。だが、間近で渡辺騎手は的場騎手と
ナリタトップロードの姿をしっかりと見ていた。
渡辺騎手の乗りっぷりは明らかに変わった。3戦ぶりに
ナリタトップロードとコンビを組んで挑んだ
阪神大賞典。4コーナーで外の3番手へと押し上げる。残り300メートルで突き放した。
自信に満ちたエスコート。
ナリタトップロードもそれに応えた。どこにも迷いはない。人馬一体の美しい乗りっぷりに、周囲は心を動かされ、渡辺騎手も涙したのだ。
沖師はレース後、こう語った。「渡辺を降ろしたのは第三者の目でレースを見てほしかったから。的場騎手との走りから何かをつかんでくれたと思う。それがこの勝利につながったんだ」。現在、渡辺師は
河原田菜々騎手を弟子に持つ。いつか、河原田騎手にも、師匠と同じような経験ができる時が来ることを祈りたい。
スポニチ