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馬場入りを50分ごねて… やんちゃ娘でもあり、孝行娘でもあったボンボヤージ 新しい旅路にエール

スポーツ報知
  • 2024年03月19日(火) 14時00分
 私が競馬担当になってから、あんな追い切りは初めて見た。

 3月13日付で引退したボンボヤージが、昨年のセントウルSに出走した際の最終追い切りのこと。最初は川須栄彦騎手が騎乗し、ポリトラックで追い切る予定だったが、全く馬場に入ろうとしない。少し動いては立ち止まり…の繰り返し。ダートのBコースへ移動したが、それでも動こうとしなかった。

 最終的に坂路へ。川須騎手のままだとまたごねるため、担当の硎屋(とぎや)助手に乗り替わった。やっと観念したのか、走り出せば軽快そのもので、馬なりで50秒5―12秒4をマーク。気付けば、追い切りの予定時刻からは50分が経過していた。その後の囲み取材では、いつも温厚な梅田調教師もさすがに困り果てていたことを覚えている。後から聞いた話だが、急きょ、またがることになった硎屋助手は素手で騎乗。さらに、調教用のブーツではなく、引き運動の際に履く安全靴を履いたままだったという。

 ボンボヤージは2019年10月に東京・芝1400メートルでデビュー。以降も短距離路線を進み、4歳7月に小倉・マレーシアCを勝ってオープン入りした。しかし、成績の向上とともに、追い切りを嫌がる面が出現。梅田調教師は「能力はあるけど、年を取って、我の強さが余計に出てきた」と振り返る。追い切り日でも、馬にキャンターだと思わせながら、じわじわと進路を変え、スピードを上げるなど工夫。梅田師は「だましながら乗っていた」と明かす。

 これだけ聞けばボンボヤージは“やんちゃ娘”だが、梅田師に特別な1勝をくれた“孝行娘”でもある。2022年の北九州記念。単勝164・3倍、18頭立て16番人気の低評価を覆し、重賞初制覇を果たした。2019年京阪杯のレース中に天国へ旅立った全兄ファンタジストが小倉2歳Sを制したのと同じ舞台でつかんだタイトル。レースの4日前に亡くなった、伊藤雄二元調教師への弔い星でもあった。梅田厩舎は2007年の開業時、伊藤雄二厩舎から馬とスタッフを引き継いだ。ボンボヤージの広崎利洋オーナーを紹介してくれたのも、伊藤雄二元調教師。梅田師は「見えない力が働いた」と、当時を思い出しながら感慨にふけった。

 ボンボヤージの普段の様子は「ツンデレな女」だったという。「ちょっと離れたら寂しい顔をするのに、行ったらカプッとかんで…。手がかかるぶん、かわいいっちゃ、かわいいけど」。苦笑いしつつも、愛情たっぷりに、優しい表情で語った。

 昨年のセントウルSで4着(13番人気)と好走したものの、以降は4戦連続で2ケタ着順。今年のオーシャンS(15着)を最後に引退し、北海道浦河町・三嶋牧場で繁殖入りすることが決まった。梅田師は「ファンタジストのぶんも頑張ってくれた。もう一つ大きな仕事があるからね」とエールを送った。新しい旅路も、どうか素晴らしいものでありますように。私も、そう願っています。(中央競馬担当・水納 愛美)

スポーツ報知

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