春G1シリーズの水曜企画は「G1 追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。「第68回
大阪杯」では東京本社・田井秀一(31)が担当。
ローシャムパークが25年ぶり関東馬Vを狙っている。騎乗する
戸崎圭太(43)に「
ドウデュース」「転機」「阪神2000メートル」の3テーマを問う。
ドウデュース劇的復活Vに沸いた昨年末の
有馬記念。検量室で戸崎が
武豊に駆け寄った。身ぶり手ぶりを交えて数分間、会話が続く。「豊さんがどのような感覚で乗ったのかを聞きたくて。自分も2戦乗せてもらって、あの乗り方で本当に良かったのかと凄く考えた。答え合わせがしたかった」。11年ぶりの天覧競馬となった
天皇賞・秋当日、
武豊の負傷で急きょレース約2時間前に
ドウデュースの手綱が回ってきた。「他にも多く騎手がいる中、あれだけのレースで、あれだけの馬に乗せてもらえた。うれしかった」と振り返る。
武豊に助言を求めるなどベストを尽くしたが最良の成果は得られなかった。レジェンドに手綱が戻った
有馬記念での復活劇。外野からはその胸中を計り知れないが、レース直後に質問をぶつける姿にトップジョッキーの矜持(きょうじ)を見た。「素晴らしい馬に乗せてもらえていい経験ができた」は間違いなく本心の言葉。“負けに学ぶ”は戸崎の根底をなす哲学の一つだからだ。
象徴的なのは2年前の
毎日杯。1番人気に支持された
ドゥラドーレスで3着敗退。「自分が情けなかった。もうあれ以上のひどい騎乗はないだろう…と。だからこそ開き直れた」。あの敗戦が自分を変えた、とさまざまなシーンで公言。勝たなければならないと数字にとらわれていたメンタルを脱し、「与えられた一鞍に集中して、今は楽しく馬に乗れている」と無欲の境地に達した。返し馬から馬を感じ、馬に対しても自分を伝える。人馬の“会話”に重きを置き、より一頭一頭の馬と向き合えるようになったという。今年はキャリアハイ(187勝)をマークした16年に次ぐペースで勝ち星を量産。関東リーディング首位を快走している。「リーディングはずっと追いかけ続けてきたもので、今ももちろん目指しているけど、それに追われる感覚はなくなった。やることは同じだけど、取り組み方や気の持ちようが大きく変わった」。
今年最初のG1騎乗となる
大阪杯では
ローシャムパークと5戦ぶりにコンビを組む。1週前追い切りに騎乗し「条件戦の頃から乗り味が良く、勝ち方も凄かったので上のクラスでやれる馬だと感じていた。以前に比べて体を起こして走れるようになって、体の使い方が良くなっている」と成長を感じ取った。舞台の阪神2000メートルは関西騎手優勢だが、戸崎は関東を主戦場とする騎手で唯一、当コースで行われたG1(21年
秋華賞=
アカイトリノムスメ)を勝っている。「ト
リッキーなコースだとは感じない。地方時代にずっと小回りで乗っていたし、先入観なく乗れているのがアドバンテージなのかも」と自己分析する。「G1だからといって普段と気持ちは変わらない。
ローシャムパークと共に精いっぱい、いい仕事をしたい」。進化を続ける巧腕がローシャムの爆発力を最大限に引き出した時、99年
サイレントハンター以来四半世紀ぶりとなる関東馬による
大阪杯Vが成就する。
《取材後記》地方・中央合わせ3908勝(26日現在)を挙げても、戸崎さんは謙虚だ。取材対応でも記者のリズムを尊重。その姿は馬との呼吸を大事にする騎乗ぶりと重なる。代名詞である馬本位の騎乗は厩舎関係者から高く評価されており、
大阪杯でタッグを組む田中博師も
レモンポップが出走するたびに「体が完全ではなかった若い頃に、戸崎さんが大事に乗ってくれたおかげで今がある」とその貢献に感謝を惜しまない。
昨年の
天皇賞・秋では「なかなかないシチュエーションなので精神的に自分はどうなるんだろう?と心配したけど、いつも通りに騎乗できた」と手応えもあったそう。ちなみに、“メンタルお化け”に進化した今年の1番人気騎乗時は【18・4・1・9】。勝率56.3%は他のリーディング上位騎手(川田=43.9%、ルメール=40.2%、全騎手平均=35.8%)をはるかに上回る。教えたくなかったけれど…今は「困ったら戸崎」が正解なんです。 (田井 秀一)
スポニチ