騎手引退から早くも1年が経ち、今年3月に待望の厩舎開業を迎えた
福永祐一調教師。ジョッキーとしては国内外でGI/JpnI・45勝を挙げ、日本競馬の名場面を彩ってきた。その第一歩となったのは、いまから25年前の桜舞台。天才・福永洋一元騎手の息子として、デビューから注目され続けた22歳の若武者が、25回目のチャレンジにしてつかんだ
ビッグタイトルだった。
1999年の
桜花賞を表すなら、ハイレベルかつ混戦模様。人気は割れていたが、好メンバーが揃っていた。中でも主役と見られていたのは、3戦3勝で駒を進めてきた
スティンガー。前年暮れ、史上最速となるデビューから29日でGIタイトルを手にした“天才少女”が1番人気に支持された。だが、単勝オッズが3.8倍にとどまり、混戦に拍車をかけたのは、直行ローテも原因だろうか。当時は前哨戦を挟むことが
セオリーとされ、4カ月の休み明けに不安を感じたファンも多かったものと思われる。
ほかにも、生涯で重賞4勝を挙げる
フサイチエアデール、古馬となってから
エリザベス女王杯を制す
トゥザヴィクトリーをはじめ、デビューから3着を外していなかった
ゴッドインチーフ、次走で
オークスを勝利する
ウメノファイバーなどが出走。それまで、そして将来の活躍馬が数多く揃って、難解な一戦となっていた。
福永騎手がタッグを組んだのは
プリモディーネだ。前年の
ファンタジーSを制していたが、人気薄での勝利だったこともあり、フロック視する見方もあった。また、軽いフレグモーネで阪神3歳牝馬S(現・阪神JF)を使えず、前哨戦の
チューリップ賞も4着に敗戦。そして何より、単勝8.9倍の4番人気にとどまったのは、当時のコース形態にも要因がある。
改修前の阪神芝1600mは最初のコーナーまでが近く、内枠が超有利とされていた。外を回らされたくない馬でポジション争いが激化し、ハイペースになりやすく、いつしか「魔の
桜花賞ペース」なる言葉が生まれたほど。そんななか、
プリモディーネが引いたのは7枠14番。弱冠22歳の福永騎手が外枠を克服できるのか。ファンはGI初制覇を期待しつつ、不安も感じていた。
しかし、レースではこれ以上にない「乾坤一擲」の手綱さばきを披露する。五分のスタートから後方に一旦控えると、残り半マイルあたりから徐々に進出。4コーナーでは加速しながら進路を探し出し、外に振られすぎず、スピードを殺しすぎない、絶妙のコース取りで前との差を詰めた。直線入口で
フサイチエアデールの背後に付けた
プリモディーネは、前がひらくと限界まで溜め込んだ末脚が爆発。内で押し切り図る
トゥザヴィクトリー、馬場の真ん中伸びる
フサイチエアデールを一気にとらえ、混戦模様を断ちきるスカッとした差し切り勝ちを見せた。
そうしてGIジョッキーの仲間入りを果たした福永騎手は、以降27年間の騎手生活において、記録にも記憶にも残る活躍を見せる。国内外で挙げたGI/JpnI・45勝は歴代3位タイ。
コントレイルの三冠達成、
シーザリオの日米GI制覇、
ジャスタウェイのドバイDF圧勝など、数々の快挙と、福永騎手の騎乗姿が思い浮かぶ。
現在は立場を変えて、調教師として第一歩を踏み出したばかり。ゆくゆくはGIの舞台に帰ってくることを期待して、初白星の知らせを心待ちにしたい。