今までにない感覚だった。3月中旬のある日。まだ開業間もない福永調教師に来春のクラシックを狙う今年の2歳世代について話を聞く機会があった。その中で印象的だったのが「お母さんに実はアメリカで乗ったことがあって…」「両親とも乗ってたけど、お母さんの方が出ているかな」など騎手時代の経験を交えた話。特にごく一部しか種牡馬になれない父親への騎乗経験は
JRA2636勝を誇る経験豊富な名手ならではだろう。興味深く聞き入った。
多くのファンの注目を集める福永厩舎が開業して、もうすぐ1か月。調教後に厩舎の大仲(従業員の休憩所)で色々な書類にペンを走らせている姿は正直、いまだに違和感がある。ただ、この1か月で何度も厩舎に足を運び、競馬場でも取材してきたが、福永師の表情からは充実感が伝わる。そして、様々な場面で資質の高さを感じられた。
開幕週の3月10日。阪神10Rで
マルブツプライド(2着)を見届けた後の検量室前で、福永師は次のレースへ向かう騎手たちの元へ足早に駆け寄った。前日の
レオノーレ(2着)で初陣を託した
武豊騎手に「豊さん、昨日はありがとうございました」と告げるためだった。さらに、その後の取材でこう口にする。「まずは安田(隆行)先生、加用(正)先生が早くから馬を入厩させてくれていたおかげです。感謝しています」。
実はレース前から何度も耳にしていた言葉だ。開幕週を走った2頭は解散厩舎からの引き継ぎ馬だが、開業前で前厩舎に所属時だった2月中旬から調教に騎乗してきた。定年引退間近ながら自らに託してくれた先輩たちへの感謝、翌日にもレジェンドへ一声かける姿にしっかりと気配りができる印象をより強くした。
その
マルブツプライドは当週の追い切りで
岩田康誠騎手が騎乗した。当日は中山にいるため、レースでは乗れない。しかし、頼んだのには理由があった。「レースで乗ったことのある岩田君に今までとの比較をして欲しかったんです」。自ら手がけるようになったことで調整法は以前と変わり、馬たちも変わっていく。そのことを踏まえて、よく口にするのが「騎手からの
フィードバックが欲しい」という言葉。実際にレースの依頼も今まで騎乗経験がある騎手を中心に考えている。当然、騎手とコミュニケーションを取りやすいのは大きな武器で、その感覚を非常に重要視している。
もちろん、それだけではない。その
マルブツプライドは「(岩田)望来は阪神のダート2000メートルでよく勝ってるから」と岩田望への騎乗依頼の経緯を明かした。調べてみると、23年以降で断トツの7勝(2位は鮫島駿の4勝)。よく調べているな、と驚いた。まだ未勝利だが、「うちのやり方に慣らせないといけないから、最初は使う馬が少ないよ」と説明していた通り、焦る様子は全くない。徐々に進化を遂げていく姿を楽しみに見守りたいと思う。(
中央競馬担当・山本 武志)
スポーツ報知