JRAは11日、先週土曜の阪神競馬7Rでの落馬事故で入院していた藤岡康太騎手=栗東・フリー=が10日午後7時49分に死去したと発表した。35歳。JRA騎手の落馬による死亡事故は04年の竹本貴志騎手以来で20人目。G12勝を誇る人気ジョッキーのあまりに短過ぎる人生に、競馬界が悲しみに包まれた。
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落馬から4日。命だけでも-。何度も手を合わせ、一日がとても長く感じた。受け止められない。涙が止まらない。
騎乗依頼のない馬でも、火曜から金曜まで熱心にまたがる日々。調教をつけた馬が他の騎手を背にG1馬になることも珍しくない。日陰でも腐らず、受け入れた。そんな康太を応援する関係者も多かった。
騎乗馬の取材後、康太は決まってこう口にした。「一日、どれかで1勝を」。固め勝ちしても、どんなに調子が良くてもおごらず、欲張らず。謙虚だった。
ヒーローへの憧れだろうか。漫画とももクロが大好きだった。代打騎乗でVを決めた
マイルCSで一躍ヒーローになったが、14年ぶりのG1勝ちにもゴール直後の
ガッツポーズはなかった。「ムーアさんがケガをしているから喜べない」。繊細で気遣いのできる康太らしかった。
昨年6月13日に長男の蓮仁くんが誕生。「かわいいでしょ?」。調教の合間、いつもうれしそうに子どもの動画を見せてくれた。お祝いにベビー服を贈り、お返しに、と頂いたのが『出生体重と同じ重さのお米です』と書かれた新米。3584グラム?と驚く記者に「僕の子にしては大きい。ジョッキーになれませんね」と笑った康太。「パパですから。頑張って稼がないと」。格好いい姿を、もっともっと見せてやりたかったよな。
有馬記念の公開枠順抽選会に一人だけ勝負服を着て登場して、場を盛り上げたのも彼らしさ。馬の
ジャッジも完璧で「コータのおかげで予想も馬券も当たったよ」と伝えると、満面の笑みを見せてくれた。明るくて、心優しい男。もっと話がしたかった。35歳…早いよ。(デイリースポーツ・井上達也)
提供:デイリースポーツ