今、歴代の名馬に再びスポッ
トライトが当たっている。クロス
メディアコンテンツ「ウマ娘 プリティーダービー」が火付け役となった近年の競馬ブーム。スポ
ニチアネックスでは、レジェンド騎手・
武豊が「相当に詳しい」と舌を巻いたウマ娘の緻密なストーリー設定と、モチーフになった史実の共通点を読み解く新企画がスタート。第2回は今週末に行われる「
ヴィクトリアマイル」を09年にレース史上最大着差7馬身差で圧勝した“常識破りの女帝”
ウオッカを取り上げる。
ウオッカは04年にカントリー牧場で生を受けたサラブレッド。
父タニノギムレットも所有した谷水雄三オーナーに「ダービーを勝ったギムレットより強い(お酒の)方がいい」と、アルコール度数の高い蒸留酒から名付けられた。「水で割るより、ストレートの方が強い」と同オーナーが使用している冠名タニノは付されなかった。
「ウマ娘」での
ウオッカは「カッコよく生きることを第一に掲げ、どんな無謀な挑戦にも恐れずに突っ込む、生粋の挑戦者」。たしかに、競走馬
ウオッカは蹄跡のない道を進み、勝つたびに常識を覆した。
06年阪神JF=2歳レコード樹立
07年
日本ダービー=64年ぶり牝馬V(43年クリフジ以来)
08年
安田記念=14年ぶり牝馬V(94年
ノースフライト以来)。3馬身半差はレース史上最大着差
08年
天皇賞・秋=コースレコード樹立。50年ぶり牝馬ワンツー
09年
ヴィクトリアマイル=レースレコード樹立。7馬身差はレース史上最大着差
09年
安田記念=牝馬史上初の連覇(92、93年
ヤマニンゼファー以来史上2頭目)
09年
ジャパンC=日本調教馬の牝馬Vは史上初
歴代最多(当時)7つの芝G1タイトルのうち、最初の勝利となった阪神JFでは圧倒的1番人気
アストンマーチャンを退け、2歳女王に。勝ちタイム1分33秒1は、2歳芝マイルレコードを10年ぶりに更新。これが伝説の幕開けとなった。ちなみに、育成ウマ娘イ
ベント「輝くボディに釘付け?」では、バイク好きの
ウオッカがバイク界の伝説に刻まれた超絶名機だという『JUV1331』をバイクショップで見つけ、虜になるシーンが描かれている。
そして、2つめのG1タイトルは
ウオッカが
ウオッカたるゆえん、
日本ダービー。牝馬の挑戦自体11年ぶり。
桜花賞で
ダイワスカーレットの2着に敗れた後、牝馬の頂点を決める
オークスには登録すらせず、角居勝彦調教師は「常に何かに挑戦する姿勢を崩したくない。ワクワクする方を選んだ」(07年5月22日付スポニチ)とダービー参戦を決断。同日の紙面には競馬界OBや関係者の談話も掲載されており、陣営のチャレンジ精神は称賛しながらも、厳しい評価も見受けられた。実際に、ダービーの単勝オッズは
桜花賞の1・4倍から10・5倍まで跳ね上がる。だが、角居調教師は「通用すると思っているから挑戦する」。
四位洋文騎手は「チャンスのある馬で挑戦できる」。
ディープインパクトも担当した西内壮装蹄師は「別格かも」と、直に
ウオッカに携わる人々には、この挑戦を無謀と捉えている者はいなかった。
結果は2着
アサクサキングスに3馬身差をつけた圧勝。
ウオッカは戦後初、64年ぶりとなる牝馬によるダービー制覇を成し遂げた。
その後の
ウオッカも「カッコよく」我流を貫いた。ダービーのすぐ1カ月後には、年長の古馬に混じって
グランプリ宝塚記念に出走。3歳馬はダービーが終われば夏休みが
セオリーだが、谷水オーナーは「秋の
凱旋門賞挑戦を考えればいい試練になる」(07年6月21日付スポニチ)と、あえて厳しい戦いに
ウオッカを送り出す。8着に敗れ史上初の3歳馬Vはならなかったが、負けて強くなる道程もまた「生粋の挑戦者」である
ウオッカの魅力だった。
G14勝目となった08年
天皇賞・秋。宿命のラ
イバルである
ダイワスカーレットとの一騎打ちは今もなお伝説的に語り継がれている。同期の宿敵とのラ
イバル関係は「ウマ娘」でも濃密に描かれている。実馬も互いに負けん気の強い性格で、
ウオッカについては厩舎関係者の談話で「レース前になると“近づかないで”という雰囲気で蹴ってくる。オーラがビンビンに出てくる」(08年10月28日付スポニチ)と世紀の一戦を前に気が張りつめる同馬の様子を伝えている。
1分57秒2のコースレコードでほぼ同時にゴール板に飛び込んだ2強のデッドヒートは13分間にも及ぶ写真判定が行われた。結果は
ウオッカに軍配。その鼻先が僅か2センチだけ前に出ていた。手綱を取った
武豊騎手は「歴史的な名牝、というより名馬。
エアグルーヴ同様、牝馬の枠を超えている」と興奮しきり。同年、牝馬としてはその
エアグルーヴ以来11年ぶりとなる
年度代表馬に輝き、その翌年には牝馬初となる2年連続の
年度代表馬に選出された。
さて、「第19回
ヴィクトリアマイル」が行われる5月12日、東京競馬場では第10競走に「
ウオッカカップ」が組まれている。
JRAウルトラプレミアムの対象のため、全投票法の払戻率を80%に設定した上で、全投票法の払戻金に売上げの5%相当額を上乗せして払戻が行われる。「その時々で心から走りてえレースだけを選んできた」(育成ウマ娘イ
ベント『星屑の
クロスロード』、
ウオッカのセリフより)女帝の常識破りな馬生に思いをはせながら、今週もファンの皆さんには競馬を楽しんでもらいたい。
スポニチ