◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
樫の女王に輝くのは
アーモンドアイ級の万能型牝馬だ。鈴木康弘元調教師(80)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第85回
オークス(19日、東京)では
桜花賞馬
ステレンボッシュに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは歴代最多の
JRA・G1・8勝を挙げた
アーモンドアイにも共通するオール
マイティーな馬体と歴史的名牝をもしのぐ柔軟な筋肉。非の打ちどころがない仕上がりで牝馬2冠に王手をかけた。
歴史的名牝
アーモンドアイの再来か。
桜花賞を勝ったばかりの
ステレンボッシュを歴代最多
JRA・G1・8勝馬と比べるのは早計かもしれませんが、馬体のスケールは勝るとも劣らない。
アーモンドアイ同様、マイラーと中距離ランナーの資質を兼ね備えた万能型の体形。太い首の付け根、大きな後膝と深い胸は一流マイラーの資質を伝えている。長い背中と腹下、各部位の余裕のあるつながりは中距離適性を示しています。
昨年の阪神JFでも触れましたが、2歳時はガチッと型にハマったマイラー体形でした。
桜花賞時もマイラーっぽいつくり。ところが、3歳の晩春を迎えて詰まり気味だった体に伸びが出てきました。マイル戦で求められる一瞬の加速力を生む後膝や首差しを備えながら、背と胴は中距離仕様へ変化してきた。
アーモンドアイにも見られた万能型への進化です。
ただし、筋肉の質は対照的です。
アーモンドアイは強じんな筋肉を身に付けていましたが、こちらは強さの代わりに柔らかさを備えている。疲れのたまりづらい柔軟な筋肉。長距離にも対応できるでしょう。
刺毛(さしげ)が全身にうっすらと出ています。刺毛とは被毛に混じった白い毛で、人間の若白髪みたいなものです。刺毛は毛ヅヤを良く見せないものですが、この鹿毛の毛ヅヤは輝いています。よほど体調がいいのでしょう。パラッと浮いた肋(あばら)。仕上がりにも狂いはありません。
チェーンをかまされたせいで口を不自然に開けていますが、立ち姿には充実ぶりが表れています。6対4の理想的な負重。つまり、体重の6割を前肢に、4割を後肢にかけて立っています。とても余裕のある姿です。阪神JF時は
テンションが高かったのか、覆面(メンコ)を着けていましたが、
桜花賞時も今回も外して写真撮影に臨みました。覆面なしでも落ち着き払ったたたずまい。覆面を外した素顔はどうか…。とても賢そうな顔つきです。両耳を正面にきちんとそろえながら澄んだ瞳で前方を見つめています。
アーモンドアイを思い出させる聡明(そうめい)な瞳。歴史的名牝の再来かもしれません。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の80歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長。
JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。
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