「
オークス・G1」(19日、東京)
いよいよ牝馬クラシック第2弾が開幕。開業4年目を迎えた
茶木太樹調教師(40)=栗東=が
桜花賞3着の
ライトバックとともに
オークスに挑む。G1初挑戦となった
桜花賞では豪快な差し脚で猛追するも勝ち馬
ステレンボッシュに0秒1差及ばず。それでも7番人気の低評価を覆し、G1で通用する力を証明した。有力馬の一頭として臨む府中の2400メートル決戦。深い愛情で結ばれる若き指揮官と
ライトバックの関係に迫った。
お盆真っただ中の昨年8月13日。ジメジメと暑い日差しが照りつける中で行われた新潟5R新馬戦での衝撃をよく覚えている。1番人気に支持された
ライトバック。前が壁になり、スムーズに追い出せなかったものの、進路を外に切り替えてからラスト1Fで見せた電光石火のような伸び脚には、応援していた気持ちも相まって思わず声が出た。
1年目の新人記者は、
ライトバックの存在が気になり、それまで単独で取材したことがなかった茶木師に突撃してみることに。一対一で話したことがない先生に声を掛ける時は、いつも以上にドキドキする。しかし第一声に救われた。「取材来てくれてありがとうな」。その言葉に、とてつもなく心が楽になった。
兵庫県姫路市生まれ。中学生時代、競馬ゲーム「ダービースタリオン」にどハマりし、「これしかない」と競馬界に単身飛び込んだという。第一印象は“とても丁寧な人”。拙い私の質問に対して一つ一つ、とても細かく答えてくれる。普段の取材中、すれ違う調教師やジョッキーの方々がそろって声を掛けていく光景を見ていると、たくさんの人に慕われているんだなというのが、ひしひしと伝わってくる。
そんな茶木師がデビュー当初から「本当にいいものを持っている」と期待を寄せる一頭が
ライトバックだ。ただ、常に気性面の課題を抱えていた。折り合いを欠いた2戦目のアルテミスSは4着で初黒星。担当の高橋一宝助手とともに、試行錯誤の日々が続く。たどり着いたのがゴム製のハミを着けての調教だった。
「口が敏感なタイプで
エルフィンS前から先生の進言もあり、口当たりの柔らかいハミに替えました。だいぶ折り合いがつくようになった」。そう説明してくれた高橋一助手は「カイバを食べている様子や馬房での過ごし方、一つ一つの行動の変化を見逃さないようにすることが大事。茶木先生は“こういうふうにやりたい”と伝えたことを全て挑戦させてくれる」と指揮官との関係性についても明かしてくれた。
高橋一助手の話を聞き、茶木師が常日頃から口にしている「スタッフや馬主さん、牧場関係者の方々に本当に恵まれて助けられている」という言葉を思い出す。今年は既に12勝を挙げ、昨年の13勝に迫る勢い。常に感謝を忘れない謙虚な姿勢や、関わる人々との信頼関係が結果を実らせてきたのではないだろうか。
3着に終わった
桜花賞のレース後、「向正面で折り合っているのを見た時、本当に感動した」と少し目を赤くにじませる茶木師の姿があった。そして迎える
オークスの舞台。「相変わらず難しいところがあるけど、使うたびに覚えてくれて、思っている以上に成長している。牧場の方々と連携できているし、とても熱心にしてくれている。これは本当に大きい」とうなずき、「3歳牝馬にとってやっぱり特別なレース。力を出し切れれば十分勝負できる」と自信をみなぎらせた。
レース前、茶木師は必ず管理馬をなでてから送り出す。「この世界、次会う時も元気な姿だとは限らないですからね。命を懸けて走ってくれている一頭一頭に敬意を払って接しています」。開業4年目の新鋭厩舎。成長を続ける
ライトバックとともに、新たな物語が生まれる瞬間を目に焼き付けたい。
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茶木太樹(ちゃき・たいき)1983年10月1日、兵庫県姫路市出身。中学時代にゲーム「ダービースタリオン」をきっかけに競馬の世界に興味を持ち、高校卒業後に西村牧場、
ヤマダステーブルなどで勤務し、ジェームズ・ファンショー厩舎での英国留学も経験。2008年5月から栗東・池添兼雄厩舎で調教助手などを担当し、20年に調教師免許を取得。安田隆行厩舎などで技術調教師を務め、21年3月に開業すると、同年5月1日の阪神4Rで
スズカフューラーでJRA初勝利を挙げた。通算779戦55勝(13日現在)。
提供:デイリースポーツ