日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は美浦取材班の鈴木悠貴(33)が担当する。開業6年目となる今年、
桜花賞で
コラソンビートを、
皐月賞では
コスモキュランダを送り込みクラシックをにぎわせている
加藤士津八師(39)に、その活躍の理由を取材した。
いつか実を結ぶ。19年3月の開業以来、そう信じてさまざまな種をまいてきた加藤士師。昨年の
京王杯2歳S(
コラソンビート)で重賞初制覇を飾ると、今年は
弥生賞ディープインパクト記念を
コスモキュランダで制した。3歳クラシック初出走も経験した。また4カ月半で13勝を挙げ、キャリアハイの年間19勝(20、23年)超えは、ほぼ確実。まいた種がしっかり芽吹きつつある。
開業からの3年は試行錯誤の連続だったという。「“いい馬が入ってきた時、結果を残せるように”という一心で、どういう仕上げ方がいいのかをスタッフとずっと探っていた」。坂路だけ、Wコースだけで調整して、それぞれのコースのメリット、デメリットを調査。カイバの配合を替えて体調の変化を観察するなどいくつかのテストを実施。その結果を獣医師と相談し厩舎の“軸”を研磨してきた。
追い切り日以外の調整は“ス
プリンター王国”からヒントを得た。短距離路線で数々の名馬を生み出す香港は、坂路がなくプール調教で心肺機能を高める。「水中は坂と同じくらい負荷がかかるのか」。加藤士師は迷いなくプール調整導入を決断。現在はほぼ毎日、入厩している全頭をプールに入れて心身の成長を図っている。
普段から負荷をかけることによる疲れはないのか。その問いに加藤士師は「ダメージは思っているほどない。むしろ
リラックス効果の方が大きい」と分析。続けて「馬は頭のいい生き物。普段が楽だったらレースでは苦しくなって、走るのも嫌になってしまう。だからある程度負荷をかけて、つらいことに慣れさせてあげることが大事なんです」とメンタル面でのメリットを説明した。
確かな理念と緻密な戦略で目覚ましい飛躍を見せる加藤士厩舎。次なる目標、G1制覇はそう遠くない未来に見られるはずだ。
◇加藤 士津八(かとう・しづや)1985年(昭60)2月2日生まれ、茨城県出身の39歳。父はダービージョッキー(85年
シリウスシンボリ)で現調教師の
加藤和宏師。美浦・
国枝栄厩舎所属で03年3月に騎手デビュー。
JRA通算1054戦20勝で11年に騎手引退。その後は父の厩舎で調教助手を務め、18年に調教師免許を取得。
JRA通算1316戦91勝。
◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の33歳。千葉大法経学部卒。14年にスポニチ入社。今年1月から競馬担当。
スポニチ