21年に生まれたサラブレッド7906頭の頂点を決める競馬の祭典「第91回
日本ダービー」まで4日。
JRA通算1075勝、G1・22勝を挙げ、3冠牝馬の
アパパネ、
アーモンドアイを育て上げた
国枝栄師(69)はゲートインを心待ちにしている。無傷3連勝で前走
スプリングSを圧勝した
シックスペンスは、さらなる上積みが大きな武器。26年2月末で定年引退を迎える指揮官にとって悲願のダービー初制覇のチャンスが訪れている。
国枝師はつい最近ダービーの夢を見たという。ホースマンの悲願であるダービー制覇。21年には2番人気に支持された
桜花賞2着馬
サトノレイナスが07年
ウオッカ以来の牝馬によるダービー制覇なるかで大きな注目を集めた。結果は
シャフリヤールからわずか0秒2差の5着。
「レイナスは(ダービー時点の完成度が)上だったな。ディープ産駒で闊達(かったつ)。フレームも長いから、距離が延びて絶対いいと思っていた。何の不安もなかった。ただ、動くのが早かった…。それでも頑張って、5着に残ったんで」
1000勝超えの名伯楽を魅了してやまない特別なレース。だからこそ、挑戦しがいもある。あれから3年。無傷3連勝の
シックスペンスを送り込む。
「やっぱり、上なんだよね。(追い切りは)やれば動いちゃう。なんかたくましい。風格が出てきた」
昨年9月、残暑がまだ残る中山で新馬V。3戦目の前走
スプリングSは豪快に余力十分に突き抜けた。初戦が頭差、2戦目が1馬身半、前走が3馬身半。走るたびに2着との差が開く。
「そのあたりが成長の証拠かな。前走はスローであれだけ(後続を)離す。あのメンバーでは上だったし、トップクラスでも面白いと思う。
皐月賞を使っていれば、分かるんでしょうけど…。その後は上がっているのが続いている。まだ、お釣りがある。そのあたりが“伸びしろ”だと思う」
皐月賞をパスしてダービー一本に絞った。
「今は全く心配ないけど、膝に気持ち悪いところがあって…。
皐月賞か、ダービー?最大目標ということで一本になった」
9頭目のダービー挑戦は、
桜花賞や
天皇賞・春(延べ12頭出走)と比べても多くない。愛馬を何より大切にする指揮官は「3歳のこの時期で馬が完成するか?というと問題は問題なんだよね。特に男馬の場合はダービー以降に力を発揮する馬も多い」と体調や成長を見極め、適宜吟味してきた。それだけ難しいレースゆえに、重みを痛感している。
「ダービーは競馬の象徴みたいなものだから。みんなダービーを目指して生産する。馬の一生でチャンスは1回。競馬に関わっていない人も知っている。ダービーを勝つような馬に携われるのは本当にありがたいこと。
チャーチル(首相)の言葉通りだと思う」
26年2月末で定年引退を迎える名伯楽にとって、ダービー制覇の残されたチャンスはあと2回。
「獲れるものならダービーはやっぱり獲りたい。(初コンビの)川田くんがどんな感触を持ってくれるか楽しみ。折り合える馬なので距離延長は心配ない。夢を与えるような馬になってほしい」
愛らしい馬名は英国で幸運を呼ぶ旧硬貨「6ペンス硬貨」から命名された。無限の可能性を秘める無敗馬に、半世紀に迫る指揮官の競馬人生の夢が詰まっている。
◇国枝 栄(くにえだ・さかえ)1955年(昭30)4月14日生まれ、岐阜県北方町出身の69歳。東京農工大農学部獣医学科卒業後、78年に開場されたばかりの美浦トレセンの山崎彰義厩舎で調教助手に。89年に調教師免許取得、翌90年開業。99年
スプリンターズS(
ブラックホーク)でG1初制覇。07年に
マツリダゴッホで
有馬記念制覇。10年
アパパネ、18年
アーモンドアイで
桜花賞→
オークス→
秋華賞の牝馬3冠達成。22年7月2日の函館競馬で史上15人目の
JRA通算1000勝達成。
JRA通算1075勝、重賞67勝(うちG1・22勝)。
《
チャーチル“至言”》「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になることより難しい」。これは第61、63代の英首相
ウィンストン・
チャーチルが述べたと言われてきた。後に創作だったことが確認されているが、今もなお多くのホースマンが刻んでいる至言。ダービーに勝つことの難しさと名誉を語っている。
《戦後2頭目の偉業へ》無敗のダービー馬は過去11頭。うち7頭は
皐月賞との2冠を達成しており、
皐月賞不出走馬の無敗Vは34年フレーモア、35年ガヴアナー、43年クリフジ、96年
フサイチコンコルドの4頭。
シックスペンスは戦後2頭目の偉業に挑む。
スポニチ