◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
無敵のパンチラッシュだ。鈴木康弘元調教師(80)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第74回
安田記念(6月2日、東京)では
ナミュールとともに
ソウルラッシュに満点を付けた。達眼が捉えたのは、元世界ヘビー級統一王者マイク・
タイソンを想起させる「ずんどう首」。爆発的な
パワーを生む極太の首で内外の一流マイラーをKOする構えだ。
「魂の突進」(
ソウルラッシュ)と名付けられた黒鹿毛が他と一線を画すのは並外れて太い首差し。その極太の首は36年前、竣工(しゅんこう)したばかりの東京ドームで目の当たりにしたマイク・
タイソンを想起させます。統一世界ヘビー級
タイトルマッチで元WBA王者トニー・タッブスに2回KO勝ち。リングサイドで見た
タイソンの肩や胸の筋肉も凄かったが、驚かされたのは周囲50センチ超の「ずんどう首」です。攻守に欠かせない分厚い首の筋肉。相手をガードごとなぎ倒す桁外れの
パワーの源泉を見た思いでした。
馬は首を使って走るため、その形状は競走能力に直結します。スマートな長い首は加速に時間がかかる半面、重心を大きく移動できるので長距離に向く。反対に
ソウルラッシュのような少し短くて野太い首は消耗しやすい半面、加速力に優れているので短距離向き。
タイソン級の「ずんどう首」はマイル戦で求められる加速力の源泉になっています。
昨年(5歳時)、一昨年(4歳時)の馬体写真を見直してみると、ここまで太い首ではなかった。加齢とともに首の筋肉が発達してきたのです。
タイソンはダンベルやバーベルを持ち上げて僧帽筋(首から肩、背中に広がる筋肉)を鍛えたそうですが、馬の
タイソンは調教とマイル中心のレースに出走を重ねながら「ずんどう首」を身に付けた。首とともに肩、トモの筋肉も厚みを増しました。切れ味は
ナミュールにかないませんが、
パワーはこちらに軍配が上がります。
覇気に満ちた立ち姿。四肢で大地をしっかりとつかんでいます。鼻先をじゃれるように下唇にかぶせていますが、目つきや耳の立て方には集中力があります。ハミの受け方も良く、尾を気持ち良さそうに流している。漆黒の毛ヅヤが重厚感を増幅しています。少し太めの腹周りも今週のひと追いと、栗東から東京への長距離輸送でちょうど良くなるでしょう。
東京ドームのこけら落としとなる
タイトルマッチを圧倒したのが
タイソンの「ずんどう首」なら、東京競馬場の今春最後の
タイトルマッチを締めくくるのは…。パンチラッシュ(パンチの突進)が内外の強豪をまとめてなぎ倒すかもしれません。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の80歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長。
JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。
スポニチ