今春、新規開業を果たした新人調教師は8人。ジョッキーから転身した福永師をはじめ、どのトレーナーも早くから馬を勝たせているが、個人的に熱視線を送っているのが
高橋一哉調教師(38)=栗東=だ。開業1年目の調教師では一番乗りでVを挙げ、ここまで4勝。そのうち2勝が11番人気でのもので、人気薄での2、3着も多い。穴党必見の厩舎だ。
通常、調教師試験合格後は1年以上、技術調教師として研修を行うが、高橋一師の場合は例外だった。今年2月で定年引退の調教師は4人。昨年7月、逝去に伴い解散した服部利之厩舎の分を含めると、5厩舎が3月に開業しなければならなかった。しかし、一昨年に合格した栗東所属の調教師は4人。昨年12月に免許を取得したうちの誰かが、わずか3カ月の準備期間で厩舎を構えざるを得なくなった。
くじ引きの結果、“即開業”が決まったのが高橋一師だった。「どうしようと思いました。でも、決まったのでやるしかないなと。一つ一つ、できることをやってきました。バタバタしましたけどね」と当時を振り返る。杉山晴厩舎で1週間だけ研修を行うなど、限られた時間で人事を尽くしたという。
開業後はさまざまな厩舎からスタッフが集まった。「みんながどの程度、馬に乗れるかも分かりませんでした」と手探り状態でスタート。それでも、スタッフ目線で接しながら関係性を築き、馬づくりを円滑に進めてきた。「助手を長くしていたので、こういう言葉がうれしいだとか、こういうことを言われたら嫌だとかは分かります。いい緊張感を持ちながらも楽しく仕事をするのが一番。暑い日も寒い日も、朝早くから出てきているわけですからね」。働きやすい環境づくりが、結果として成績に表れている。
4勝を挙げつつ、安田隆行厩舎から引き継いだ
ダイシンクローバーでは
中山グランドジャンプに出走(7着)するなど着実に経験を積んできた。近況の戦いぶりについては「思った以上に馬が頑張っていますし、みんなよく働いてくれています。スタッフ同士もお互いコミュニケーションを取れていますしね」と、試行錯誤しながらも軌道に乗りつつある様子。即開業でなければ巡り合わなかった仲間と、チーム一丸で馬づくりに心血を注いでいる。
「周りの方に支えていただいて、おかげさまで馬房もパンパンに。こうなるとは正直、思いませんでした」。2歳馬も素質馬がそろっており、今週の新馬戦には土曜京都5R(芝1600メートル)に
アンヘリート(牝2歳、父
ノーブルミッション、
母シータトウショウ)、日曜東京5R(芝1800メートル)に
ダイシンレアレア(牡2歳、父
キズナ、
母ダイシンステルラ)がスタンバイ。また、4月に米国のセリで購入し、早くて秋デビュー予定のBernina Star22(父
アメリカンファラオ)も「馬っぷりが良くてスピードもありそう」と楽しみな素材だという。
同時開業の7人より約1年の“ビハインド”がありながらも、ここまでの蹄跡は順調そのもの。転厩馬を生まれ変わらせて穴馬券を多数演出しているが、ぜひ穴党だけではなく、多くの方に注目してもらいたい。(デイリースポーツ・山本裕貴)
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高橋一哉(たかはし・かずや)1986年3月4日生まれ、38歳。新潟県出身。新潟大卒業後、福島県のJRA競走馬リハビリテーションセンターで研修。2010年10月、JRA競馬学校(厩務員過程)に入学。卒業してからの10カ月は京都府の宇治田原優駿ステーブルで勤務。トレセン入り後は
村山明厩舎、
鈴木孝志厩舎で調教助手。23年に調教師免許を取得した。今年3月に開業し、同月16日阪神12R(
ハクサンバード)で初勝利を挙げた(延べ4頭目)。6月4日現在、JRA通算48戦4勝。
提供:デイリースポーツ