50万円を元手に約2億円ゲット――。そんな夢のような話が2003年の
宝塚記念で起きた。勝った
ヒシミラクルの単勝馬券を1222万円分も購入。一瞬にして億万長者に上り詰めた中年男性がいた。通称「ミラクルおじさん」。彼が巻き起こした“ミラクル”は、一般紙やテレビなどでも報じられ、今でもファンの中で語り草となっている。
ヒシミラクルはそれまで
菊花賞、
天皇賞(春)とGIを2勝していたが、その馬名に違わず、いずれも“ミラクル”な勝利であった。
菊花賞は200万円を支払い、クラシックの追加登録をしたうえで、8分の3抽選をくぐり抜けての出走、そして戴冠。
天皇賞(春)は
阪神大賞典で大敗していたが、当時の春天史上、最大の巻き返しとなる前走7着からの制覇だった。これだけの実績を持ちながら、03年の
宝塚記念では単勝16.3倍の6番人気。「史上最高」とも評される豪華メンバーが揃ったこと、距離短縮が嫌われたことが原因とはいえ、今にして思えば人気がなさすぎた。
よもやの低評価に反発するかのように、
ヒシミラクルは同レースでGI・3勝目。週明け月曜、新聞には「
シンボリクリスエス陥落」「
ネオユニヴァース古馬の洗礼」といった文字が並んだ。だが、話題をさらったのは「払い戻し約2億円
ヒシミラクルの単勝馬券を1222万円購入」の見出し。03年6月30日発行の『スポーツ報知』紙面には、「28日午前、ウインズ新橋で
安田記念の的中馬券を払い戻した中年男性が、全額
ヒシミラクルの単勝を購入」とある。前日に同馬のオッズが1.7倍まで急上昇したのはこのためだ。これほどの金額を張るなら、当日に気配や馬体重、傾向をチェックしそうなものだが、ミラクルおじさんは前日に勝負を仕掛けていた。
なぜ1222万円という中途半端にも感じる金額だったのか。一部報道によれば、これは単勝馬券をコロガシていたからではないかと推察されている。
日本ダービーで
ネオユニヴァースの単勝馬券を50万円分購入し、2.6倍を的中させて130万円を獲得。続く
安田記念では
アグネスデジタルの単勝に130万円を全額投入し、9.4倍を当てて1222万円まで元手を増やし、その配当を全額
ヒシミラクルの単勝購入に充てたというのだ。
宝塚記念には先の
ネオユニヴァース、
アグネスデジタルも出走していたが、あえて人気薄が予想された
ヒシミラクルをチョイス。まるで結果がわかっていたかのような、神がかり的な勝負の連続だった。鞍上の
角田晃一騎手もこれには驚き、「勝負師だなぁ、と思っていましたよ。僕らよりも勝負師なのかもしれませんね」と紙面にコメントを寄せている。
1222万円×16.3倍は1億9918万6000円。当時の
宝塚記念は1着賞金1億3200万円だから、それよりも多い金額を手にしたことになる。当時は
WIN5も無く、馬券で億超えなど夢のような話。「ドリームレース」で起きたひと幕は、
ヒシミラクルの“ミラクルホース”ぶりを、より印象付けることにもなった。