いよいよ夏競馬に本格突入する。この時期にこそ輝く馬もいれば、反対に苦手とする馬もおり、馬券の取捨はますます難しくなってくる。もっとも夏競馬が荒れやすくなる要因の一つに、暑さによる馬の体調管理が難しくなることが挙げられるが、競馬関係者が危惧するのは生命を脅かす危険性もある熱中症だ。
昨年8月、熱中症による多臓器不全で22年
菊花賞馬の
アスクビクターモアが死去したのは記憶に新しい。普段の調教では夏が近づくにつれ調教時間を早め、できるだけ涼しい時間帯に行うなど、夏負けするような馬には事前に厩舎側も対策している。JRAとしても歴史的な酷暑が毎年更新されていくような状況とあって、今年から番組を一部変更。2回新潟(7月27日〜8月4日)では最終競走の発走時刻を繰り下げ、気温が高い時間帯での競馬を休止する。また、既に競馬場のパドックや検量室の近くにはミスト、簡易シャワーなども設けて対応している。
そんな中、面白いアイデアだと思ったのが西園正厩舎の暑熱対策だ。夏場になると競馬場で見かける管理馬の首には、青いベルト状のものを巻き付けている。トレーナーに確認すると「氷のう」だと教えてくれた。幅30センチ、長さ1メートル20センチ程度のベルトの内側には、二つの大きなポケットがあり、保冷剤を入れる仕組みのもの。ベルトの端はマジックテープで簡単に脱着ができる。
「使うまで氷のうを冷凍庫に入れて冷やしておいて競馬の前につける。人間と同じで、太い血管が首にあるから効果的に冷やせるんだよ。2年前ぐらいからうちではやり出していて、今年も既にやっている。今年も全頭にやりたい」
実際に装着しているときと、そうでないときとでは汗のかき方が変わってくると西園正師は言う。木下助手にも確認してみると「単純な比較はできないんですが、氷のうを付けるようになってから、うちの馬で熱中症になった馬はいないと思います。去年なんかは夏場にデビューした2歳馬の成績も良かったと思いますよ」とのこと。実際に調べると昨年6〜9月の新馬戦に14頭を送り出し、5勝をマーク。3着以内には11頭が入線し複勝率78・6%と驚異的な数字を叩き出している。
一方、トレーナーは現状の課題にも言及する。氷のうベルトを装着できるのは、競馬場にある厩舎地区から装鞍場までの30分程度と限られた時間だけ。「パドックでは禁止されているし、装鞍所では外さないといけない。本来は返し馬、ゲート裏までしたいくらいなんだけどね。競馬場にミストがあるといっても、2歳馬はかえって怖がったりすることもあるし、万全とはいえない」と胸の内を明かす。
「馬は言葉をしゃべれないから、人間側が汲(く)んであげないといけない。馬にいいことはどんどんして欲しい。現状のルールだと難しいから、ファンの皆さんの理解を得られるようにどんどん告知してほしい。レースまでギリギリまで付けられるような環境になってほしいね」。定年引退まであと2年の西園正師だが、馬を思う熱意は少しも衰えていない。将来の競馬界のためにも、暑熱対策が今後ますます進化していけばと思う。(デイリースポーツ・島田敬将)
提供:デイリースポーツ