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"馬の温泉"ってご存じですか?故障馬が療養するだけじゃなかった「競走馬リハビリテーションセンター」に潜入取材

デイリースポーツ
  • 2024年07月16日(火) 10時00分
 福島県いわき市に“馬の温泉”がある。現役競走馬のリハビリテーションを専門とする唯一の施設「競走馬リハビリテーションセンター」。故障馬が温泉療養するだけの施設…かと安易な思いで潜入取材を敢行したが、浅はかだった。高速トレッドミルなどさまざまな施設のほか、最新検査機器を備えたリハビリ施設だったことが判明。施設の全貌、リハビリの現状をリポートする。

  ◇  ◇

 熱戦が続く夏の福島競馬も今週末で幕を閉じる。みなさんはご存じだろうか。同じ福島県に大規模なJRA施設があることを。“馬の温泉”としても知られる競走馬リハビリテーションセンターは、競馬場のある福島市から離れたいわき市にあり、故障馬を温泉療養と環境改善によって回復させるとともに、温泉療法の効果を研究することを目的として設立された。

 記者はいわき市に馬の温泉があることは知っていたが、漠然と湯治をイメージしていた。ただ、それは昔のことで、今は進化していることが取材をして分かった。東樹宏太所長は「以前は短期のリフレッシュ目的で利用するケースも見られましたが、現在はリハビリ施設や診断装置等の設備が充実したことで、故障馬が実戦に復帰するためのリハビリ目的として利用することが多いです」と使用目的の変化を語る。

 施設は温泉以外にもウオーキングマシン、ウオーターウオーキングマシン、ウオータートレッドミル、高速トレッドミル、スイミングプール、調教馬場があり、リハビリに必要なものはそろっている。ただ、これらの施設以上に気になったのは検査機器だ。当センターは最新のUltrasound Tissue Characterization(略してUTC)を導入している。同所長は「これは腱(けん)・靱帯(じんたい)の横断像を0・2ミリ間隔で連続撮影できる新たな超音波診断装置です。撮影した横断像を積み重ねることで3次元的の画像構築が可能となり、腱線維の太さや連続性の違いで腱線維配列を4段階に色分けして評価することもできます」と説明。現在はデータを蓄積している段階ではあるものの、従来の検査より損傷部を詳細に評価することができるため、疾病の早期発見やリハビリに役立つ可能性がある。この検査方法は初めて聞いた。

 施設や検査機器だけではない。東樹所長は獣医師でもあり、同センターでは所長を含めた2人の獣医師が勤務し、2週間に1回の間隔で精密検査を行っている。「こまめに精密検査を行うことで、治っていく過程をしっかり見極めることができます」とうなずく。施設や検査機器が充実していても、それを使いこなせなければ意味がない。そのサポート態勢もしっかりしている。

 8日時点で14頭が療養中で、その中には23年大阪杯の覇者ジャックドールがいる。同馬は天皇賞・秋(11着)後に右前浅屈腱炎が判明し、2月28日に同センターへ入所。来た当初は軽めのメニューだったが、今では週4日はウオータートレッドミル、週2日はトレッドミルを使用したトレーニングをこなせるようになった。同所長は「ここまでトラブルはなく、順調にリハビリは進んでいます」と経過を説明。名物の温泉にも数日おきに入り、心身のリフレッシュを図っている。「いつもリラックスして入っていますよ」と入浴の様子を伝える。実戦復帰に向けての準備は着々と進んでいる。他にも23年皐月賞3着馬ファントムシーフや22年朝日杯FS4着馬キョウエイブリッサもいる。

 記者が競馬を知った90年代、屈腱炎は「不治の病」と言われていた。現在でも完治が難しいことに変わりはないのだが、症状によってはレース復帰が可能となった。屈腱炎に限らず、これからの技術の進歩によっては、以前だったら引退を余儀なくされた故障馬が、復帰できる可能性も高まるはずだ。競馬ファンだった時代を含め、「故障によって引退した馬が、現役を続けたならその後にどんな走りを見せたのか」という妄想をしてきた。まだ先になるなるだろうが、いつの日かそんな妄想をしなくなる時が来るのではないかと思った。(デイリースポーツ・小林正明)

提供:デイリースポーツ

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