7月27日に行われた
新潟ジャンプSで
リレーションシップに騎乗した
高田潤騎手(43)=栗東・フリー=が、JRAで初となるネックガードプロテクター(頸部を保護するための装具)を装着してレースに騎乗した。思案を巡らせ、実用化するまでに至った彼の行動力には頭が下がる思いだ。
障害戦に騎乗するジョッキーは常に危険と隣り合わせだ。スリリングなレースは魅力的だが、それも安全性が担保されていることが大前提。99年の制度改革以降、踏み切り板を設置するなど安全性は向上されているものの、自助で補える部分はまだ残されている。
とりわけ、高田が注力したのが頸椎の保護。「最近、落馬事故が多いですし、頸椎(のケガ)は特に多い。熊沢さんに白浜さん、僕もそうですし、ここ何年か立て続けに起こっていたので」。高田自身、22年12月の
イルミネーションJSで騎乗していた
メイショウアルトが2周目4号障害で落馬。その際に第2頸椎を骨折し、自身のツイッター(現X)で「折れた骨が大きくズレており、これ以上、あとちょっとでもズレていれば命はなかった」と明かしている。
常日頃から「いいものがないか」と思案していたある日、紹介されたのがボートレース用のものだった。それまでに試したバイク用やアメフト用はもうひとつ
フィットしなかったが「“これはイケそう”と感じました。ボート用は(プロペラ等で)切れないような素材ですが、そこは布地を改良しようと。留め具もボート用は後ろに付いていますが、競馬用は横で留めるように。メーカー側も前向きに改良してくれるので」。視界が大きく開けた瞬間だった。
申請には1カ月ほどの時間を要したが、承認が下りた翌週の
新潟ジャンプSで初ライド。「今はボート用の小さいサイズの保冷剤入りを着けています。全然、違和感はありません。今回は黒岩も保冷剤なしのものを着けていましたが、冷却スプレーをかけて乗ったら暑さは問題なかったと。これから着けて乗ったジョッキーの意見を募って、改良して、よりいいモノができれば」。安全性&機能性が高まれば、騎手のパフォーマンス向上にもつながるだろう。
タイムリーな話では、パリ五輪・総合団体で日本が92年ぶりの五輪メダルとなる銅メダルを獲得した馬術。乗馬の
クロスカントリーでは既にエアバッグシステムが導入されている。落馬した際に人体への衝撃を緩和するように、鞍と連動したピンが外れてエアバッグが作動するそうだ。競馬用のエアバッグ導入にも高田は前向き。「ゲート内で破裂しないかとか、斤量の問題などもあるので時間がかかるとは思うけど、可能性はゼロではないので。落馬自体は避けられませんが、防げる事故は防いでいきたい」と意気込む。
千里の道も一歩から。高田の熱意がJRAを動かし、大きな一歩を踏み出した。夢は果てなく、保護具の安全性がJRAから世界へと浸透することを願う。「何を始めるにも最初は多少の違和感がありますが、使い続ければ慣れてくるものなので。“これが当たり前”というぐらいになればいいですね。エアバッグを含めて、いろんな部分でいい方に向いてくれれば」。高田はこれからも発信し続ける。安全安心な競馬の輪が広がることを期待したい。(デイリースポーツ・松浦孝司)
提供:デイリースポーツ