8月7日付スポーツ報知競馬面の「夏の自由研究」女性ジョッキー編で、先月実戦復帰した
古川奈穂騎手=栗東・
矢作芳人厩舎=のインタビューを掲載した。今回は、そこで伝えきれなかったエピソードを交えながら、彼女の人柄を紹介したい。
古川奈騎手がルーキーイヤーから大人びた印象だったのは、いわゆる“ストレート”で競馬学校を卒業した同期より、2歳年上だったこともあるだろうか。受験は高校1年時で、在学中にはケガで留年を経験している。
“王道”でこの職業に就いたわけではない。乗馬を習っていたのは小学校高学年の約1年間のみ。東西トレセンや各競馬場などの
JRAの関連施設ではなく、都内の動物園の乗馬クラブに通っていた。「動物園に遊びに行くついでに、乗馬クラブに行くみたいな感じでやっていました。競馬学校のレベルには、足元にも及ばないぐらい。結局1年ぐらいで、(中学)受験とかもあって辞めてしまって…」。ジョッキーを夢見る少年少女が、競馬学校受験に向けて毎日のように本格的なトレーニングを重ねることを思えば、異端なのかもしれない。
だからこそ、合格後も苦労の連続。乗馬経験が少ないため、通常より早めに、入学前から乗馬を教わった。その時に両腕を疲労骨折。「陸上部でしたし、今まで腕を使うようなことはしてこなかったので」と冷静に振り返っていたが、15歳なら心が折れてもおかしくない。ここでくじけなかったからこそ、騎手になってから何度ケガをしても、必ず戻ってくるのだ、と実感。「気持ちだけでやってきました」という一言には、重みがあった。
普段取材するなかで印象的なのは、所属する矢作厩舎での姿。馬とじゃれながら、遅い時間まで残っていることが多い。「私を一番相手してくれていたメリちゃんが引退しちゃったんです」と寂しそうに語るのは、7月で競走馬登録を抹消した
メリタテス(牝4歳、父
アメリカンファラオ)のことだ。
レースでも9戦コンビを組み、全2勝は自らの手綱でつかんだ。「
リラックスタイムでした。馬房の中は本当にかわいかったです」とほほえむが、ただ遊んでいたわけではない。「(馬房の)外に出ると、急にスイッチが入っちゃうんです。少しでも、私の声で落ち着くのを覚えてくれたら、馬の上でもちょっと落ち着いてくれないかなという期待を込めて、スキンシップを図っていました」。パートナーが少しでもいい精神状態で競馬に向かえるように、という気遣いだ。
作業中や作業終わりの厩舎スタッフと話し込んでいる姿も、よく見かける。内容は馬のことや、作業についての質問。「担当の方がいらっしゃるので、あんまり深入りしないように。その方の仕事は邪魔しないようにとは、常々思いながらやってますね」と、謙虚さが表れている。
今年6月には鼻と両頬の骨折という大きなケガに見舞われたが、復帰初週に勝ち星を挙げた。このまま残りの北海道シリーズと、もちろんその後も、持ち前の芯の強さ、そして心の温かさを貫き、さらなる飛躍をしてほしい。(
中央競馬担当・水納 愛美)
スポーツ報知